水産物の偽装、突破は簡単? 「国産信仰」と業界のいびつな力関係

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アサリについた泥を洗い落とす網田漁協の組合員たち=熊本県宇土市で2022年2月2日午後3時10分、中村園子撮影
アサリについた泥を洗い落とす網田漁協の組合員たち=熊本県宇土市で2022年2月2日午後3時10分、中村園子撮影

 「熊本県産」としてスーパーに並んでいたアサリの大半が輸入品だったことが判明し、大きな波紋を広げている。ただ、近年の産地偽装問題を振り返ると、アサリにとどまらず、水産物で際立って多い。なぜ、後を絶たないのか。取材を進めると、制度の「抜け穴」と、複雑な業界事情が見えてきた。

アサリ偽装なぜ発覚?

 1日、農林水産省が発表した調査結果は衝撃だった。2021年10~12月に全国のスーパーで「熊本県産」として販売されたアサリは推計2485トン。これに対し、熊本県産の21年の年間漁獲量(速報値)は35トンしかなく、「ニセ熊本県産」が大量に出回っていることが明らかになった。「熊本県産」をうたうアサリの一部をDNA分析すると、約97%が中国産や韓国産だったという。

 蒲島郁夫・熊本県知事は「大胆かつ広範囲だ」と憤るが、大規模な産地偽装疑惑が以前からささやかれていたのも事実だ。同県産アサリの産地偽装は05年、農水省が当時の日本農林規格(JAS)法に基づく改善指示を公表したことで初めて表面化。ここ10年程度だけでも15件超に上る。「何十年も前から聞いていた」。こう証言する地元の漁協組合長もいる。アサリの旬は春と言われる。しかし、冬場など国産アサリが出回りにくい時期でも「なぜか熊本県産は安定して仕入れることができた」と疑問を抱く小売関係者も少なくなかった。

突然の「不漁」が大きな転機に

 それでも当局はこれまで「明確な証拠がない」と本格調査には及び腰だった。その姿勢を変えたのは、皮肉にも熊本県産アサリの不漁が原因だ。…

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