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セブン―イレブンで販売中の豆腐でできたプロテインバー「TOFU BAR」(豆腐バー)が人気だ。2020年11月の発売から出荷本数は1000万本を超え、21年には経済誌が選ぶヒット商品コンビニ部門で大賞を獲得。22年2月にリニューアルし、高まる健康志向に乗ってさらなる飛躍を目指す。同商品の開発プロジェクトを率いたのが豆腐メーカー「アサヒコ」(さいたま市)の池田未央さん。大ヒットの陰には、業界外からの転職組である池田さんの、豆腐の世界の常識にとらわれない柔軟さと失敗にもめげない執念があった。【増田博樹/デジタル報道センター】
「最初は時間が止まっているように感じました」。現在、アサヒコでプラントフォワード事業部部長を務める池田さんは、約20年間いた菓子業界から18年春に豆腐の世界に移った時にそう感じたという。消費者が豆腐を選ぶ基準はブランドではなく値段が高いか安いか。食べ方はみそ汁や冷ややっこが7~8割で何十年間も変わらない。メーカーも「おいしい豆腐の食べ方」などの提案をあまりしていなかった。
体によい食品なのに、と思ったが、入社から間もないこともあってよいアイデアが浮かばない。そんな時に巡ってきたのが同年夏の米国視察だ。ロサンゼルスのスーパーでは、日本にないさまざまな硬さの豆腐が売られていた。軟らかめのものは果物と混ぜてスムージーに、硬めの豆腐は肉代わりに焼いたり、揚げてナゲットのようにしたりと、肉や魚に代わるたんぱく源などとして日本とは全く違う形で広く親しまれていた。池田さんは「米国の豆腐がクレバーなイメージであるのに対し、日本では豆腐の魅力を生かせていない、と申し訳なく感じました」と振り返る。
縮小が続く日本の豆腐市場。その活性化には、これまで豆腐を食べてこなかった層を開拓する新しい発想の商品が必要だ。さまざまな使い方で手軽に植物性たんぱく質を摂取している米国の豆腐の在り方は池田さんの考える方向に一致していた。池田さんは、米国の豆腐のように弾力や食べ応えがある豆腐を目指し開発を始める。ただ、アサヒコに当時そのような設備はなく、池田さんとスタッフ1人の計2人で研究室にこもってのスタートだった。
19年春、米国視察から半年以上かけてキューブ状の試作品(初代高たんぱく豆腐)が完成した。凝固後に水分を抜き、体積あたりのたんぱく質は一般の木綿豆腐の1・7倍。これをベースに19年7月に「もっちり食感の満足サラダ豆腐」としてテスト販売したものの、消費者の反応は今一つだった。「これなら普通の豆腐をサラダに乗せればいいのでは、という感じでした。たんぱく質を効率的に摂取できるのですが、今までの豆腐の食べ方を変えるまでにはいきませんでした」
セブンに持ち込んだ試作品 好反応はあったが…
ただ、「もっちり……」発売前の試食会で、「硬すぎる」と年配者からは不評だった一方で、若年層からは「もちもちしていて好き」「食べ応えがあり満腹感が得られる」とまずまずの評価を得ていた。豆腐と縁遠かった年齢層に、新しい食べ方を提案できるのでは、という希望はあった。
一筋の希望を支えに改良作業を続ける中で、池田さんは、セブン―イレブンのヒット商品「サラダチキンバー」に出合う。高たんぱく低カロリーの同商品は「目指すところが同じ。原料が豆腐ならさらにコレステロールが控えられるのではないか、と考えました」。サラダチキンバーを目標に作業を進める過程で、バー状の試作品が関係者の目に留まる。
アサヒコはこれまでにセブン―イレブンの弁当製造業者向けに業務用の豆腐を供給していたが、本部の商品開発担当者と直接商談することはあまりなかった。しかし、業務用営業の担当者が「半ば強引に」(池田さん)取ったアポを通じて、池田さんは開発中のバー状の豆腐を持ち込む。健康志向でたんぱく質が注目される中、植物性たんぱく源はサステナブルで面白い、とセブン側の好感を得たものの、こうも言われたという。
「サラダチキンバーの利用シーンは例えば、…
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