過去最大の107兆円を計上した新年度予算案が衆院本会議で可決された。今国会前半の焦点だったが、現憲法下で2番目となる異例のスピード通過となった。
審議が与党ペースで進んでいるためだ。国会運営が円滑ならば、政策の実行には障害がないはずだ。にもかかわらず、政府の新型コロナウイルス対応は後手に回っている。
予算委員会は与野党が一問一答で政策をただし、政府が答弁を通じて国民に説明する場である。だが双方とも緊張感を欠いている。
岸田文雄首相の答弁からは危機感が伝わらなかった。
オミクロン株が猛威を振るう中、立憲民主党はワクチン3回目接種の目標を設けるよう求めたが、首相は当初、否定的だった。「1日100万回」を明言したのは、野党の質問から約2週間もたった後だった。
18歳以下への10万円相当の給付が、離婚した一人親家庭に届かない問題への対処も遅れた。
いずれも、野党の追及をかわしきれなくなると方針転換するという受け身の対応だった。
答弁では「検討する」「しっかり受け止める」などと繰り返し、無難にやり過ごそうという姿勢が透けて見えた。これでは議論は深まらない。
野党は足並みが乱れ、迫力を欠いた。第1党の立憲は「批判ばかりしている」と言われることを気にするあまり、政権を追及する姿勢が定まらなかった。
質問に立った日本維新の会の若手議員が首相にエールを送る場面さえあった。
驚いたのは国民民主党が予算案に賛成したことだ。玉木雄一郎代表は自らが提案したガソリン高対策を巡り、前向きな首相答弁を引き出したからだと説明した。ただし岸田氏は「あらゆる選択肢を排除しない」と述べたに過ぎない。
本予算は政府の全ての施策の裏付けとなる。首相指名や内閣不信任決議と並び、各党の姿勢を示す重要議案だ。賛成は、閣外からの協力を宣言したに等しい。
今夏の参院選を前に、野党は対政権で結束を図れていない。それが政府・与党の慢心を生んでいるのではないか。参院の予算審議では緊張感ある論戦を望みたい。