「静かな時限爆弾」アスベスト 古い被害、再び閉ざされる救済

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アスベストの一種である「アモサイト(茶石綿)」=東京労働安全衛生センター提供
アスベストの一種である「アモサイト(茶石綿)」=東京労働安全衛生センター提供

 体内に吸い込んでから数十年後にがんなどを発症することから、「静かな時限爆弾」と呼ばれるアスベスト。2006年に被害者を救済する法律が整備され、労災補償の時効を過ぎるなどした被害も救われるようになった。だが、この門が再び閉ざされようとしている。古い被害の救済措置が3月下旬に終了する見通しとなっているのだ。【大久保昂/東京社会部】

 <アスベストの被害救済制度の二つの給付が3月で請求期限を迎えてしまう。被害者救済にとっては大きな問題です>

 旧知の取材先から私の元にこんなメールが届いたのは1月末のことだった。発がん性のあるアスベストが原因で、がんなどの病気を発症した人たちに対する救済措置について、今年3月28日以降は申請できなくなる遺族が大量に生まれることを危惧する内容だった。

 まずは、アスベストによって国内でどんな被害が発生し、どのように被害者の救済制度ができたのかを説明したい。

「クボタショック」で危険性知られる

 アスベストとは繊維状の鉱物で、「石綿」とも呼ばれる。熱や摩擦に強いという特徴があり、高度成長期以降、国内に大量に輸入され、耐火材や断熱材などとして社会の至るところで使われた。ただ、厄介なことに発がん性が強く、いったん吸い込んでしまうと、長い年月がたってから「中皮腫(ちゅうひしゅ)」や肺がんといった病気を発症するリスクを抱える。中皮腫とは、肺や腹部の臓器などをくるんでいる膜にできるアスベスト特有の難治性のがんである。

 こうした危険性が広く認識されるようになったきっかけは、05年6月に大手機械メーカー「クボタ」の旧神崎工場(兵庫県尼崎市)を巡る大規模な健康被害が、報道で明るみに出たことだ。工場の労働者たちがアスベストが原因の病気で多数亡くなっていただけでなく、工場の近くで暮らしていた住民も中皮腫を発症していることが判明した。

 これを機に、国内の他のアスベスト関連企業でも同じような被害が起きていることが次々と発覚していった。日本社会にアスベストの危険性を知らしめた一連の出来事は、「クボタショック」と呼ばれるようになる。

石綿健康被害救済法で二つの課題に対処

 被害者に対する補償や救済を求める声が高まる中、二つの課題が浮上した。

 一つは仕事でアスベストを扱ったことがない人には、公的な救済がないことだった。仕事で吸い込んだのが原因で病気になったのであれば、労災制度の補償を受けられる。しかし、アスベストを扱う工場の近くに住んでいたり、アスベストが含まれている製品が身近にあったりしたことが原因で発症した場合は、労災の対象にはならない。高額な治療費も自己負担しなければならなかった。

 労災制度にも「時効の壁」という穴があった。労災補償の請求権は死後5年で時効を迎える。「クボタショック」でアスベストの危険性が大々的に報道されるまで、被害に気づかなかった遺族の多くが、労災補償を請求できなかった。

 こうした制度の不備を埋めるために制定されたのが、石綿健康被害救済法だ。労災の対象とならない被害者に対し、医療費や弔慰金などを支給する「救済給付」という仕組みを作り、同法の施行(06年3月27日)より前に亡くなったケースも救済対象とした。また、時効によって労災補償を請求できなくなった遺族には、「特別遺族給付金」という別の救済制度を設けた。

救済の重要部分が3月27日に打ち切り

 古い被害までさかのぼって特例的に救済する仕組みは、法施行後3年間の時限措置だった。しかし、被害者が亡くなった後、かなりの時間が経過してから被害に気づく遺族が後を絶たないため、延長を求める声が高まった。08年と11年、議員立法で2度の法改正が実現し、請求期限は引き延ばされてきた。

 ただ…

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