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波は穏やかに打ち寄せていた。東日本大震災から10年以上が過ぎた宮城県女川町。多くの漁船が行き交い、カキなどの養殖が行われている女川湾を見下ろす高台に2021年11月21日、1基の石碑が完成した。碑にはこう刻まれている。「大きな地震が来たら、この石碑よりも上へ逃げてください」。碑の周りには20代の若者たちの姿があった。
震災の教訓として、町内の沿岸部21カ所の「浜」と呼ばれる集落の津波到達点に石碑を建てる――。こう計画したのは、震災直後に中学生になった鈴木智博さん(22)をはじめとする仲間たち。11月に完成した碑が目標とした21基目。「1000年後の命を守る」。この誓いを、ともに被災した同級生たちと次世代に受け継ごうとしている。
11年前の「あの日」…
小学校の卒業を間近に控えた「あの日」の朝も、いつもと同じように母の智子さん(当時38歳)に見送られた。「行ってらっしゃい」という母の声は今も耳に残っている。
小学3年だった妹と一緒にバス停まで走った。生まれ育った尾浦地区の当時の人口は約200人。ほとんどの家が漁を営んでいた。
教室で卒業式の練習をしていた午後2時46分。突然「ドン」と突き上げるような揺れに襲われた。机の下に隠れたが、激しく動く机を押さえることができなかった。避難した校庭の地面はひび割れ、しばらくすると雪が降り始めた。体がぬれないよう、頭上に大きなブルーシートをかぶせられ、その下で膝を抱えて寒さをこらえていた。
「津波が来たぞ!」。約50分後、大人の叫び声が校庭に響いた。より高台にある総合体育館に向かって走った。背後から地鳴りのような音に加え、流された建物がぶつかり合うごう音が聞こえ、同級生らの悲鳴と混じり合った。
たどり着いた体育館で、毛布を体に巻いて過ごした。友人たちには次々と家族が訪れたが、自分の家族は姿を見せなかった。体育館の中はいつしか、家族単位と見られる固まりが増えてきた。「尾浦の方は家が残っているらしい」。そんな大人たちの会話が聞こえたが、不安は消えなかった。
父の高利さん(55)が体育館に現れたのは、震災から数日後だった。異臭が漂うがれきの中を歩き、尾浦地区の寺に身を寄せた。そこで、高利さんから、智子さんと祖父母の3人が「どこにもいないんだ」と知らされた。「どこかに逃げていてほしい」。心の中で何度も祈ったが現実は非情で、3人は遺体で見つかった。
古里の被害は甚大だった。住民約1万人の8%以上が津波の犠牲となり、6511棟あった建物の約65%が地震で全壊するか、津波で流された。自宅を失った鈴木さんは親類のいる仙台市に避難。さらに奈良県の親類宅に移った。女川町に戻るのは、再び雪がちらつき始める約9カ月後のことになる。
鈴木さんが進学するはずだった町立女川中学校(当時は女川第一中学校)は4月12日に再開し、入学式を行った。校舎は女川湾を望む高台にあり、被害を免れた。生徒の半数以上は各地の避難所から臨時のスクールバスで通った。
未曽有の災害で教師たちも混乱を極めた。1年生の学年主任になった阿部一彦さん(55)も悲惨な出来事を経験した生徒とどう向き合うか悩んでいた。入学式から2日後にあった最初の授業は鮮明に覚えている。教室の窓は全てカーテンが閉められていた。壊滅的な被害を受けた町を見ないようにするためだった。
授業の冒頭に「今の女川にできることを考えてみよう」と切り出したが、生徒の反応は薄かった。「被災した町の様子も見せずに、どうやって古里のことを考えさせられるんだ」。阿部さんは思い切ってカーテンを開けた。…
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