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「産学官連携」どう進める? 「浅間リサーチ エクステンションセンター」岡田基幸センター

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おかだ・もとゆき 1971年、大阪市生まれ。94年、信州大繊維学部卒。工学博士。96年、同大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。97年、上田市役入職し、2011年まで在職。05年、信州大繊維学部客員准教授、10年、同大学特任教授(産学官地域連携)、 11年、財団法人「上田繊維科学振興会」理事 (13年4月に一般財団法人。13年、一般財団法人「浅間リサーチ エクステンションセンター」(AREC)専務理事・センター長、16年、東信州次世代イノベーションセンター長 、20年、上田信用金庫監事 拡大
おかだ・もとゆき 1971年、大阪市生まれ。94年、信州大繊維学部卒。工学博士。96年、同大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。97年、上田市役入職し、2011年まで在職。05年、信州大繊維学部客員准教授、10年、同大学特任教授(産学官地域連携)、 11年、財団法人「上田繊維科学振興会」理事 (13年4月に一般財団法人。13年、一般財団法人「浅間リサーチ エクステンションセンター」(AREC)専務理事・センター長、16年、東信州次世代イノベーションセンター長 、20年、上田信用金庫監事

 近年、産学官連携の重要性が叫ばれている。長野県上田市にある信州大繊維学部構内にある一般財団法人「浅間リサーチ エクステンションセンター」(AREC)は、産学官連携支援施設として、2002年に全国に先駆けて設立された。会員企業の交流をベースにして、企業同士のマッチングを行いながら、大学との連携を進めるほか、レンタルラボの貸し出しや、企業向け見学会や講演会、さらに、地域にある中小企業の人材確保や定着支援にも力を入れている。同センター専務理事の岡田基幸センター長に、連携を進める上での課題や今後の展望などを聞いた。【中根正義】

信州大繊維学部構内に設立 キーワードは「つなぐ」

 ――AREC設立の経緯を教えてください。

信州大繊維学部の前身である上田蚕糸専門学校時代からの建物で、同学部のシンボルの繊維学部講堂。国の登録有形文化財に指定されている 拡大
信州大繊維学部の前身である上田蚕糸専門学校時代からの建物で、同学部のシンボルの繊維学部講堂。国の登録有形文化財に指定されている

 信州大繊維学部の前身は明治時代末期に創立された上田蚕糸専門学校です。養蚕が盛んだった上田市を代表する高等教育機関でした。大学では繊維産業が衰退する中でも繊維の技術をバックボーンにしたファイバー工学への展開を図っており、我が国に唯一、繊維応用力学研究室が設けられていて、現在では繊維の名を冠した学部がある大学は信州大だけになりました。

 2000年ごろのことです。繊維学部ではファイバー工学の技術を生かして東レや東洋紡と共同研究をしていました。当時の上田市長がそのことを知り、市も含めた産学官が連携できる施設が必要だと考え、信州大に相談したことがきっかけとなり、地元企業など36社が会員となり上田地域産学官連携推進協議会が設立されました。そして、繊維学部構内に市が建てたのが、ARECの前身、上田市産官連携支援施設でした。

 国立大学敷地内での連携支援施設設置は、全国的にも先駆的なものでした。06年には農学部がある長野県南箕輪村に、伊那分室ができました。13年には地元金融機関の上田信用金庫と連携協定を締結し、16年には上田市周辺の小諸市、佐久市、千曲市など10市町村による東信州次世代産業振興協議会が発足し、18年に長野県内の主な金融機関と次世代・成長産業支援に向けた連携協定を結びました。

 ――どのような活動をしているのですか。

 主なものは次の3点です。企業が必要とする研究シーズを大学から選び出し、マッチングさせる。そして、企業のニーズを引き出して、大学の研究と融合させる。また、会員の交流をベースにして、企業同士のマッチングを行いながら、多種多彩な成果を生み出していくことです。

 民間企業や大学研究をリンゴの木とするなら、大学での研究成果「シーズ(=おしべ)」と企業からの「ニーズ(=めしべ)」を「受粉(=連携)」させる、ミツバチのような役割を担っています。現在では地元経済を活性化させるための活動が評価され、東信州地方の「地域活性化ネットワーク」の拠点になっています。

財政基盤は会員からの会費収入とレンタルラボの賃料

 ――現在、法人会員は320社、賛助会員は101団体にのぼるそうですね。大学研究機関との交流のために貸し出しているAREC内の共同研究スペース(レンタルラボ)も満室だと聞きました。

 ARECの財政基盤は会員企業からの年会費5万円とレンタルラボの賃料などです。年間収入は約4000万円あり、財政的にも独立できています。信州大と地元金融機関が旗振り役になり、上田市など地元自治体とARECが支える形ができあがりつつあり、それが地元企業を物心両面で支援する仕組みになっています。

 地元商工会などもさまざまな勉強会などを開いてきましたが、実は、会員企業同士がそれぞれどんなことをやっているか知らなかったということがありました。我々は、大学と企業を結ぶハブとして、補助金や特許などの申請などのお手伝いもしながら、企業のニーズを把握しながら、それに合った大学のシーズを見つけるとともに、企業同士のマッチングにもつなげていくという取り組みをしてきました。そうした積み重ねによって、新たな事業の創出ができるようになっています。

 ――具体的には、どんなものがありますか。

 例えば、県内の野菜カット工場の関係者から、タマネギの皮の廃棄処分に困っているという話がありました。処分費だけで年間2000万円かかっている、と。そして、タマネギは血液がサラサラになる成分があると聞くが、皮には栄養分が多く含まれている感じがする。何か生かせないか、という相談でした。

 そこで、信州大農学部で試験をしたところ、タマネギの皮には抗酸化物質であるケルセチンや食物繊維など有効成分がバランスよく含まれていることが分かりました。そこで、タマネギの皮を使った豚用の飼料を開発し、自然飼育をしている上田市の養豚場で使用したことろ、飼育期間が短く低価格で甘く溶けやすい脂身を持ったブランド豚肉の「絹味豚」が生まれました。さらに、人間用にお茶や皮粒の健康食品として販売されるようになり、地元金融機関が商品化に向けてサポートしてくれるようになりました。

 東信州地域は、自動車や電機関係で培った高度な技術力があります。医療や介護産業という点でもポテンシャルがあると思っています。信州大繊維学部には、軽量素材や新素材についての多くのシーズがあります。それらを用いた「リハビリ・アシストロボットスーツ」や「高分子ゲルを用いた人工筋肉」などのように、福祉介護分野にも役立てられる人間支援技術を研究している教員や、ロボットスーツや繊維強化プラスチック(FRP)のリサイクルの研究をしている教員がいます。

 これらを生かし、この地域に「次世代自立支援機器産業」を創出していくこともできるのではないでしょうか。タマネギの皮の例でも分かるように、特定栄養成分が豊富な野菜の工場生産や介護食品の製造、スポーツ医学とリハビリテーションなど、さまざまな分野での協業が進みつつあります。医療機関や地域企業の多くが参画できるような形を作り、さらなる地域の活性化を進めたいと思います。

UIJターン希望者向けの就職支援も

浅間リサーチエクステンションセンターがある信州大繊維学部 拡大
浅間リサーチエクステンションセンターがある信州大繊維学部

 ――長野県は高校卒業後の若者の県外への流出率が高い県です。

 ARECは、会員企業から「若手人材をあっせんしてほしい」という声があったことをきっけに、コロナ禍前には学生と企業が食事や酒を酌み交わしながら居酒屋で語り合う就コンなどにも取り組みました。「本音で語り合える場があることで相互理解が進む」との評価も得られるようになってきました。

 女性やシニア層、UIJターン希望者に向けた就職支援策なども企画したり、企画を運営する団体の支援をしたりもしてきました。コロナ禍の中で、ICT環境が格段に整備され、働き方も変わりました。若者や女性、UIJターンといった人材の確保が地方の企業でもしやすくなっています。

 地方創生ということでは、地方の大学にとっては第1次産業も含めたその地域の産業特性を見据えることで、新たな産業を創出するためのグランドデザインが描けるはずです。きらりと光る技術や産業基盤をとらえ、大学が持つ研究力を掛け合わせることで新たな基盤への支援を地方の大学が行えるはずですし、そのために、さまざまな知識と経験を持った人材がしっかりとコーディネートしていく地方に求められています。

 ARECの強みは、これまで20年にわたり築いてきた企業や行政との橋渡しや中小企業支援のための企画力です。「地方創生」「UIJターン」と言っても地域や企業に魅力がなければ人は来ません。「長野の企業で働こう」と思ってもらえる魅力をどう発信していくかにかかっていますね。

コーディネーターに求められる資質とは?

 ――岡田さんは繊維学部の卒業生で、大学院まで進まれ、博士号もお持ちです。

 周囲のサポートがあって博士号が取得できましたが、家庭の事情もあり、最初は上田市の職員になりました。しかし、研究のプロセスを知り、経験して専門的な知識が深まったことで、産学連携を進めることができたと思っています。工学博士としての知識そのものは市役所職員としての仕事には直接関係なかったかもしれませんが、大学と企業、行政をつなぐコーディネーターの仕事には大いに役立ちました。

 産学官連携支援をしていく上で、産業界も自治体も複雑化、高度化する社会に対応すべく、「理工系の高い基礎研究力」と「人文・経済・経営など、すそ野の広い研究領域」が求められています。また、大学の使命として教育・研究に加えて社会貢献(地域貢献)が求められていますが、国からの補助金(国立大学の場合、運営費交付金)が削減されており、資金の多様化が必要です。それだけに、多様な経験を持った人材が求められているといえるでしょう。

 ――最後に、産学官コーディネーターに求められる業務領域やスキルは何でしょうか。

 六つあると思います。一つは企業や大学の研究室を訪問する中で、どんなニーズがあるのか、どんなシーズがあるのかを聞き取る力が大切です。二つ目は、マッチングする能力が挙げられます。三つ目に、公的支援制度を利用したり、研究費申請書を作成したりすることも重要です。さらに、四つ目として知的財産についての理解と先行特許の調査や出願、市場ニーズの調査、五つ目に広報や海外展開支援、他大学との交流・連携、六つ目に金融機関との連携や大学発ベンチャー設立に向けた法務が分かることです。

 コーディネーターは研究者や技術者、アドバイザーではありません。あくまでもつなぐ専門家であり、地域や企業のことが分かり、企業の本気度、研究者の協力度の把握ができることが重要になります。

 最後になりますが、産官学連携に関しては、各地の大学にもセンターができています。それぞれの組織にあることも重要ですが、どうしてもその組織のルールに縛られて動きにくくなるということが起きます。本センターのように、各組織と緊密な連携を取りながらも独立した組織として運営されることが成功のカギになるのではないでしょうか。

信州大繊維学部内にある浅間リサーチエクステンションセンター
信州大繊維学部内にある浅間リサーチエクステンションセンター

所在地

〒386-8567

長野県上田市常田3

ホームページ

http://arecplaza.jp/

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