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「尋常」選ばぬ異色作/謎解きの底に「反戦」=内藤麻里子

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 東山彰良さんの『怪物』(新潮社)は、国共内戦に敗れ台湾に渡った一族を描いた『流』(2015年、直木賞受賞)の系譜にある作品と言えよう。しかし、その書き方は尋常ではない。歴史小説、幻想小説、メタフィクション、滑稽譚(こっけいたん)などが入り交じった異色作だ。

 主人公は台北出身の作家、柏山康平で、10年前に小説「怪物」が刊行された。同作は1959年、台湾から中国に偵察に向かった機体が撃墜され、62年に奇跡の帰国を果たした空軍隊員の叔父がモデルだ。大陸で逃亡中に民兵の親玉である“怪物”に拾われ、そこから逃亡して生還したのだ。文庫化に当たり、柏山は修正を加えることにした。

 東山さんは、叔父の話も、修正を加える過程もストレートに書くことを選ばない。叔父の息子である従兄との会話は韜晦(とうかい)し、幻想的で本作の構造にかかわるメタフィクション部分を担う。出版社社員との情事もあり、そちらは上等な滑稽譚を読むよう。叔父のことを知っている元日本軍兵士との出会いも幻想的だ。“怪物”とはそもどんな人間だったのか。叔父は中国でどんな経験をしたのか。書くことへの逡巡(しゅんじゅん)…

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