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1月に開催された公演から②~読響&N響定期

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昨年11月に来日して日本国内に留まり、1月のN響など5つのオーケストラを振ったアクセルロッド 写真提供:NHK交響楽団
昨年11月に来日して日本国内に留まり、1月のN響など5つのオーケストラを振ったアクセルロッド 写真提供:NHK交響楽団

 1月に開催された演奏会のリポート2回目はガエタノ・デスピノーサが指揮した読売日本交響楽団の名曲シリーズ(11日、サントリーホール)とジョン・アクセルロッドが客演したNHK交響楽団の1月定期公演Cプログラム(21日、東京芸術劇場コンサートホール)を振り返る。オミクロン株の出現による新型コロナ・ウイルスの感染拡大第6波で海外との往来が再びストップした中、2人の指揮者は予定を変更して日本に長期滞在し複数のオーケストラを指揮するなどの活躍ぶりをみせた。

【ガエタノ・デスピノーサ指揮 読売日本交響楽団 名曲シリーズ】

イタリア・パレルモ出身のデスピノーサはヴァイオリニストとして音楽家のキャリアをスタートさせ、ザクセン(ドレスデン)州立歌劇場のコンサートマスターだった時にファビオ・ルイージの勧めなどを受けて指揮者に転向。ミラノ・ヴェルディ響の首席客演指揮者を務め(2013~17)コンサート、オペラの両面で成果を挙げている。

 昨年11月に来日し、海外からの入国制限が強化された12月以降も日本に滞在し、読響やN響、大阪フィルなど複数のオーケストラの公演のみならず、新国立劇場の「さまよえるオランダ人」(ワーグナー)も来日できなくなったジェームズ・コンロンに代わって指揮するなどの大活躍を続けている。「オランダ人」ではオペラ指揮者としての手腕を発揮して公演を成功に導いたと評価されていた。さらに3月にはジャパン・ナショナル・オーケストラ(特別編成)の指揮も予定されている。

 筆者は12月のN響定期Cプロでもデスピノーサの公演を取材したが、1月の読響との演奏と合わせて振り返ってみると響きの作り方が巧みな指揮者との印象を持った。この日はヨハン・シュトラウスⅡ世の「こうもり」序曲を除くとフランス作品が並ぶプログラム。ラヴェルの「クープランの墓」では読響の精緻な合奏力を存分に駆使してサワサワと空気が揺れるような繊細なサウンドを醸成して聴かせてくれた。ボレロでは読響管楽器セクションの安定した力量に裏打ちされたソロが次々に披露され、大きなクライマックスを築いて曲を締めくくった。N響とのムソルグスキー(ラヴェル編)の「展覧会の絵」でも同様のことがいえるが、オケ・プレイヤー出身だけにオケの機能をよく知った上で、鳴らし方やヤマ場の作り方を考えていることが窺える音楽作りであった。

 前半、ボワエルデューのハープ協奏曲はダザヴィエ・メストレに代わって吉野直子がソリストとして登場。安定感の中に美しさを感じさせるデリケートなソロを披露。デスピノーサは音量の小さなハープに配慮するかのようにオケの音量コントロールに細心の注意を払いながら吉野のハープを支えていた。

1月の読響名曲シリーズで指揮台に立ったデスピノーサ(左)とソロを務めた吉野直子
1月の読響名曲シリーズで指揮台に立ったデスピノーサ(左)とソロを務めた吉野直子

【ジョン・アクセルロッド指揮 NHK交響楽団1月定期公演Cプログラム】

 米国出身で現在はヨーロッパを中心に活動するアクセルロッドは首席客演指揮者を務める京都市響を指揮するため11月に来日し、その後も滞在延長を繰り返し、2月11日の東京都交響楽団との演奏会まで読響、N響、兵庫県立芸術文化センター管の5オケの20公演を指揮した。21公演を振るはずであったが、1公演は直前に中止となった。インターネット上に公開されている動画によるとアクセルロッドは自らスーパーで買い物をして自炊もしていたという。前述のデスピノーサ指揮読響の演奏会にも客席に彼の姿があった。東京での生活も板についている様子であった。

 昨年末に聴いた読響の第9公演もアクセルロッドが指揮したが、こちらもN響定期と合わせて感想を述べると、派手さはないものの堅実な指揮ぶりであったといえよう。

 この日のメイン、ブラームスの交響曲第3番は過度に情感に流されることなく、N響の重心の低い厚いサウンドを生かしつつ全体にオーソドックスなアプローチで音楽を組み立てていた。安定感は秀でていた一方で、欲をいえば第4楽章ではもう少し激しさや緊迫感が前面に出た方がよかったように感じた。

 前半のブルッフのヴァイオリン協奏曲は服部百音がソリストを務めた。緊張からか最初はやや硬さが目立ったが第2楽章あたりから緊張が解けたのか、伸びやかな演奏となり才能の片りんを見せていた。

 この2人の指揮者が日本に残って指揮を続けた背景には欧米に比べると格段に少ない感染者数による〝安心感〟があったことは想像に難くない。とはいえ、オミクロン株出現を受けて海外からの入国制限強化と第6波襲来という厳しい状況を乗り切っていく上で、2人が日本の楽壇に果たした役割は大きかったことは紛れもない事実である。さらに同一の海外の指揮者が短期間に日本の複数オケを振った公演を聴き比べるという普段ではできない体験をすることで、各オケの特性を再確認する貴重な機会にもなった。これもコロナ禍における音楽の楽しみ方であったように思う。

公演データ

【読売日本交響楽団 名曲シリーズ】

1月11日(火)19:00 サントリーホール

指揮:ガエタノ・デスピノーサ

ハープ:吉野直子

管弦楽:読売日本交響楽団

コンサートマスター:小森谷 巧

ヨハン・シュトラウスⅡ:喜歌劇「こうもり」序曲

ボワエルデュー:ハープ協奏曲ハ長調

ラヴェル:組曲「クープランの墓」

ラヴェル:ボレロ

【NHK交響楽団1月定期公演Cプログラム】

1月21日(金)19:30 東京芸術劇場コンサートホール

指揮:ジョン・アクセルロッド

ヴァイオリン:服部百音

管弦楽:NHK交響楽団

コンサートマスター:篠崎史紀

ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番ト短調Op.26

ブラームス:交響曲第3番ヘ長調Op.90

筆者プロフィル

宮嶋極(みやじま きわみ) 毎日新聞グループホールディングス取締役、番組・映像制作会社である毎日映画社の代表取締役社長を務める傍ら音楽ジャーナリストとして活動。「クラシックナビ」における取材・執筆に加えて音楽専門誌での連載や公演プログラムへの寄稿、音楽専門チャンネルでの解説等も行っている。

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