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(集英社新書・990円)
「統計学的人間観」問題のありかを追究
新型コロナウイルスが世界を席巻し始めた2020年3月、ドイツのメルケル首相(当時)は、テレビ演説で「抽象的な統計数値」ばかりが語られる現実を批判し、「ある人の父親であったり、祖父、母親、祖母、あるいはパートナーであったりする、実際の人間が関わってくる話なのです」と語った。感染者数や死者数にばかり還元して、新型ウイルスへの対応を議論するあり方に対して、メルケルは具体性を持った人間のいのちを想起すべきだと訴えたのだ。
著者は、本書の中で「統計学的人間観」に対して疑義を呈する。そこで取り上げられるのが、予防医学という存在である。現在社会では、脳卒中や糖尿病、がん、心不全など、さまざまな病気に関するリスクが語られ、それを避けるための医学的啓発活動が盛んにおこなわれている。これによって、生活の細部までリスク計算が忍び込み、適正体重の維持、適度な運動、適切な塩分摂取量などが求められる。
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