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情熱の理由

大阪185校で唯一の女性監督 箕面自由学園・山田幸恵さん

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練習を見守る山田幸恵監督。その視線は厳しくも優しい=大阪府豊中市の箕面自由学園で2022年3月11日、中田博維撮影 拡大
練習を見守る山田幸恵監督。その視線は厳しくも優しい=大阪府豊中市の箕面自由学園で2022年3月11日、中田博維撮影

 「野球がしたくて、野球を教えたくて、こちらに来たのではなかったので……」。大阪府豊中市にある箕面自由学園の山田幸恵さん(26)は、硬式野球部があって府高野連に加盟する185校で唯一の女性監督だが、実は戸惑いばかりの就任だった。

 相模原市出身。兄2人の影響もあって小2で白球を追い始めたが、進学した中学は野球部がなくなったばかりで陸上競技(短距離)へ。高校ではバドミントン部だった。野球を再開したのは、体育教師を志望して入った東京女子体育大だ。「一つの競技(バドミントン)を続けた方がいいかも」と思ったが、元々好きなのは野球。「ここに部があるのも何かの縁」と決意した。4年時には主将で1番・左翼手として活躍。軟式野球の全日本大学女子選手権で準優勝するなど「改めて野球は楽しいと感じた」。

 2019年春、縁のあった箕面自由学園で体育教師になった。最初に面倒をみてくれと要請された部活は女子バスケットボールだったが、経験がないことから野球部に変更され、コーチとして指導者の一歩を踏み出した。もっとも高校野球に携わるのは初めてで「硬球を投げたことはあるが、硬球のノックは未経験。監督の言葉を選手に伝えるぐらいだった」。

「まさか」の監督就任

「貴重な体験をさせてもらっている」と話す山田幸恵さんは大阪府でただ一人の女性監督だ=大阪府豊中市の箕面自由学園で2022年3月7日、中田博維撮影 拡大
「貴重な体験をさせてもらっている」と話す山田幸恵さんは大阪府でただ一人の女性監督だ=大阪府豊中市の箕面自由学園で2022年3月7日、中田博維撮影

 そんな新米コーチに同年11月、翌春からの監督就任が伝えられた。「いずれは監督を、という話もなくいきなり。『まさか』『無理です』と返答した」。不安な船出を、さらに新型コロナウイルス禍が覆う。休校が続いてスタッフと打ち合わせができない。春季大会に続いて夏の選手権大阪大会も中止。代わりに実施された独自大会でコールド負けした。「練習できたのは1カ月間もなかったと思う。(当時の)3年生4人を、もう少し指導したかった」。その思いが今の原点になっている。

 同校は私立だが、グラウンドはサッカー部やアメリカンフットボール部などと共用で恵まれた環境とは言えない。硬式経験者も少なく、指導すべきことは多い。「技術面と精神面と、どちらに重点を置くのかで迷う」が、心掛けるのは選手に目標を持たせて自ら考えさせることだ。例えば投手には試合前に「与四死球は何個まで」といった目標を言わせ、試合後に改めてアドバイスする。自らの大学時代、監督不在で作戦や練習方法を選手が考えた経験が根底にある。

周りは男性ばかり やりにくかったが

 「野球をやらない理由が丸刈りというのは時代に合っていないのでは」。そう考えて丸刈りを廃止すると入部者が増え始めた。周囲の学校の野球指導者は男性ばかりで「やりにくさがないかと問われれば、やりにくさしかなかった」と、最初は練習試合を申し込む電話もちゅうちょしたほどだが、今では悩みを他校の仲間に相談したり、同じ高校の別の競技の監督から助言をもらったりする。「サッカー部の先生から『試合前のアップでどんなチームかが分かる』と聞いた。アップの中身が試合で出てくるんだと」。試合前には相手のアップやノックも注視するようになった。

 練習ではノックバットを握り、試合ではサインを出す。「打てる選手が多いので」と、送りバントはあまりしない。エンドランのサインを3球続けて出すなど果敢に仕掛けることも。「セオリーは理解するが、とらわれなくてもいいのでは」と柔軟だ。ただ、好き勝手にやらせるのではなく、1人目、2人目の打者が簡単に倒れた後に早打ちした選手には「そんな場面ではないよ」と流れを重視した指摘も忘れない。

出始めた成果 歩み続ける

 「まだ教える技術が足りない」と話すが、成果は徐々に出始めている。同校に甲子園出場経験はなく、選手権大阪大会の勝利は14年を最後に遠ざかるが、21年の春季大阪大会では2勝した。3人のマネジャーを含め42人の部員をまとめる木村太一主将(2年)は「僕らの意見も聞いてくれ本当にやりやすい。生活面もしっかり指導してくれる」と信頼を寄せる。

 最初は思いもしなかった高校野球の監督だが、大変さだけでなく面白さも実感するようになってきた。「短期間で成長する子もいる。卒業後も野球を好きでいてほしい。貴重な体験をさせてもらっている私も、可能な限り(監督を)続けたい」。山田さんの指導者生活は始まったばかりだ。【中田博維】

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