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強制不妊で再び国敗訴 上告せず救済策の拡充を

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 旧優生保護法によって不妊手術を強制された男性の裁判で、東京高裁が国に賠償を命じた。先月の大阪高裁に続く国の敗訴だ。

 甚だしい人権侵害の政策を積極的に進めた国に、司法が再び厳しい姿勢を示した。国は大阪のケースで上告しているが、今回も含め司法の判断を受け入れるべきだ。

 東京高裁は、優生保護法について「差別的思想に基づくもので、極めて非人道的」と批判し、憲法に違反するのは明らかと断じた。

 一連の裁判では、不法行為から20年経過すると賠償請求ができなくなるという民法の「除斥期間」の扱いが焦点になっている。長い年月を経た後に、法的な争いが起きるのは好ましくないとの考えから設けられたものだ。

 判決は「時間の経過だけを理由に国が賠償責任を免れるのは、著しく正義に反する」と指摘した。

 「偏見・差別を広めた」「身体を拘束したり、だましたりしての手術も許容した」「強制不妊手術の規定が削除された後も、長らく救済措置を取らなかった」

 ゆがんだ優生思想に基づく差別政策の非道さを列挙した。

 最高法規の憲法に違反する政策で生じた被害について、民法を根拠に救済を拒むことへの疑問も示した。国の不法行為に対する賠償請求は、憲法で保障された権利だと強調した。

 除斥期間は、被害者の事情にかかわらず、機械的に適用されてきた。しかし、国に責任がある問題にまで一律に当てはめるのは理不尽だ。判決は従来の運用に転換を迫るもので、不妊手術以外の被害にも影響する可能性がある。

 2019年に成立した救済法の見直しも必要となる。

 一律320万円の一時金を支払う内容だ。だが判決は、差別を受け、子を持てなくなるなど幾重もの苦痛への慰謝料としては、1500万円が相当と指摘している。

 不妊手術の被害者は約2万5000人に上るが、支払いが決まったのは1000人に満たない。

 救済法による請求は施行後5年間に限られている。被害者が名乗り出られる環境を整えつつ、期限をなくすことも検討すべきだ。

 国は司法判断を重く受け止め、直ちに救済策の拡充に取り組まなければならない。

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