なぜ、初めから刑事責任を問わなかったのか。検察には、国民の疑問に答える責任がある。捜査の経緯を誠実に説明すべきだ。
河井克行元法相と妻の案里元参院議員による選挙買収事件で、現金を受け取った広島県議ら34人が一転して起訴された。
河井夫妻は有罪が確定している。受け取った側の100人は当初、全員が不起訴とされたが、一部について検察審査会が「起訴相当」と議決していた。
東京地検は記者会見を開き、初めの処分を「克行元法相が主導した事件であり、当時は妥当だと考えた」と釈明した。一転させたのは「国民から選ばれた検察審査会の議決を踏まえた」という。
型通りの説明にとどまっており、納得できるものではない。
そもそも全員不起訴は、国民の感覚と懸け離れていた。
公職選挙法は買収をした人、された人の双方を処罰すると定め、法定刑は同じである。いずれの行為も選挙の公正さを損ない、民主政治の根幹を揺るがすからだ。
しかも、100人は地方議員や首長、選挙スタッフなどだ。選挙に関して現金を受け取ってはならないことは、「イロハのイ」だったはずである。
不起訴は、検察との取引によるものではないかとの疑念もある。
処分が出されたのは、河井夫妻の判決後だ。夫妻は初公判で無罪を主張しており、受け取った側の証言によって買収を裏付ける必要があった。
検察から「捜査対象は克行元法相。(あなたは)これからも頑張らないといけない人だ」と言われた、と話す地方議員もいる。
34人のうち、買収されたことを認めた25人は、裁判所が書面のみで審理する略式起訴となった。否認した9人は、受け取った金額にかかわらず、在宅起訴された。
9人については今後、公開の法廷で審理される。捜査が適正だったか争われる可能性もある。
案里元議員の陣営には、自民党から1億5000万円もの資金が提供された。買収につながった疑いは払拭(ふっしょく)されていない。
事件の全容は、解明されないままだ。関係者全てがきちんと説明しなければ、国民の不信は解消されない。