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原発事故の賠償基準 国に見直し迫る司法判断

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 未曽有の原子力災害による被害者の救済には不十分だという司法のメッセージである。

 東京電力福島第1原発事故で被害を受けた人々が起こした集団訴訟で、賠償額が確定した。最高裁が6件の裁判について、東電の上告を退ける決定を出した。

 いずれも国が定めた賠償基準を上回る金額となった。司法判断を重く受け止め、直ちに基準を見直すべきだ。

 基準によると、精神的損害への賠償総額は、帰還困難区域に住んでいた人が1450万円、自主避難者は8万円などとされている。交通事故の自賠責保険を参考に決められた。

 しかし、避難や移住を余儀なくされた人は、ふるさとでの暮らしや地域のつながりを奪われた。住み続けた人も、農業や漁業などの仕事ができなくなった。

 6件の高裁判決は、基準より賠償額を数百万円増やしたり、対象地域を広げたりしている。生活の基盤を失い、ふるさとが様変わりしたことに対する償いとして、基準は十分ではないとの判断だ。

 特に、約3600人が原告となった訴訟の判決では、避難区域や地域ごとに賠償額が認定された。裁判に加わっていない人も今後、請求できる余地がある。

 被害者の実態に即した救済を進めるためには、基準の引き上げと対象地域の拡大が急務だ。被災自治体も見直しを求めている。

 東電の対応も、改めて問われている。

 裁判では、基準を上回る賠償は認められないと、かたくなな姿勢を崩さなかった。現在の基準ですら高すぎると主張していた。

 原発事故の賠償は、東電の過失を前提としない仕組みとなっている。だが、安全対策に不備があったと指摘している判決もある。責任は極めて重い。

 東電は「三つの誓い」として、(1)最後の一人まで賠償貫徹(2)迅速かつ、きめ細やかな賠償の徹底(3)和解仲介案の尊重――を掲げている。忠実に実行すべきだ。

 原発事故から11年が経過した今も、多くの人が避難先での生活を強いられている。移住を決断した人も少なくない。国と東電には、誠意を持って被害者への償いに取り組む責任がある。

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