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ウクライナ侵攻

ロシア軍がウクライナに侵攻。米欧や日本は対露制裁を決めるなど対立が先鋭化しています。

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ウクライナ侵攻と独ソ戦に不気味な類似点 ベストセラー著者の憂慮

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第二次世界大戦の対独戦で砲撃するソ連軍=1941年
第二次世界大戦の対独戦で砲撃するソ連軍=1941年

 ナチス・ドイツとソ連が戦った独ソ戦(1941~45年)は、双方で民間人を含め3000万人以上が死亡したとされる人類史上最悪規模の戦争だった。主戦場の一つとなったのが、いまもロシアの侵攻が続くウクライナだ。独ソ戦とロシアのウクライナ侵攻。2019年に出版されたベストセラー「独ソ戦 絶滅戦争の惨禍」(岩波新書)の著者、大木毅さんは、二つの戦争の不気味な類似点を指摘する。【聞き手・金子淳】

大木毅さんに聞いた

 ――ウクライナ侵攻を機に改めて著書が読まれています。

 ◆ナチス・ドイツは独ソ戦を自らが掲げるイデオロギーに基づく「世界観戦争」とみなし、「スラブ人という劣った人種を殲滅(せんめつ)ないしは奴隷化し、その後にドイツが植民地帝国を作るための闘争」と規定した。一方、ソ連側はナポレオンに勝利した祖国戦争(1812年)になぞらえ、対独戦をファシストの侵略者を撃退する「大祖国戦争」と呼び、報復感情を正当化した。その結果、独ソ戦は通常の戦闘だけでなく、住民虐殺や捕虜虐待など悲惨なことが起きた。今回のウクライナ侵攻も、住民の虐殺や強制連行が明らかになってきている。読者の多くは皮膚感覚で「どうも普通の戦争ではないようだ」と感じているのではないか。

深刻な世界観戦争になりつつある

 ――ウクライナ侵攻が独ソ戦に似ている部分は?

 ◆独ソ戦では43年のクルスクの戦い以降、ソ連軍が大反攻に出た。ロシアとウクライナの国境は当時の戦線とほぼ同じだ。今回も同じ土地を同じ方向から攻めているので、表面的には似てくる。80年たっても軍を動かしやすい場所はほぼ決まってくるからだ。首都キーウ(キエフ)や東部ハリコフなどは独ソ戦でも激戦地だった。

 しかし、より深刻なのは、ウクライナ侵攻も世界観戦争になりつつあるという点だ。独ソ戦はナチスのイデオロギーの下、労働力や資源を根こそぎ奪う「収奪戦争」や、民間人を虐殺する「絶滅戦争」の要素が強まった。ウクライナ侵攻でプーチン政権は「ナチスからロシア系住民を解放する」と主張している。戦局が泥沼化する中、こうしたイデオロギーが肥大化し、「邪悪な敵を倒すためには手荒なことをしてもかまわない」と考えるようになっているのではないか。露軍はすでに非戦闘員のいる病院を爆撃したり、燃料気化爆弾など殺傷能力の高い兵器を使用したりしている。

 ――ロシアの「世界観」とは?

 ◆プーチン露大統領は「大祖国戦争史観」への回帰を打ち出している。ソ連がナチス・ドイツと独ソ不可侵条約(39年)を結びポーランドなどに侵攻したのは、来たるべきナチスとの戦いに備えていたからであり、人類の敵であるナチスを打倒したのはソ連である、という見方だ。独ソ戦では、ウクライナの独立勢力が一時的にナチス・ドイツと手を結び、ソ連に抵抗したことがある。プーチン氏はそうした歴史を引き合いに出し、「何としても打倒しなければならない」と主張する。今回の侵攻では、こうしたイデオロギーが前面に出てきて、戦争がいっそう残酷な形に向かいつつある。

手打ちが難しい「善と悪の戦い」

 ――世界観戦争の怖さとは?

 ◆世界観戦争に踏み切ったのはナチスだけではない。例えば米国もベトナム戦争で共産主義という「悪」と戦っていると主張した。その結果が、住民を虐殺した「ソンミ事件」や人体に有害な除草剤をまく「枯れ葉作戦」だ。「正義は何…

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【ウクライナ侵攻】

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