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ウクライナ侵攻 情報と国際世論 戦争の形を変えたSNS

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 戦時下にあるウクライナから人々の惨状がネット交流サービス(SNS)を通じて世界に広がり、国際政治を動かしている。

 発信されているのは、破壊された町並みや、爆撃におびえる子どもたち、国外へ逃れる人々の姿だ。ロシア軍が撤退したキーウ(キエフ)近郊で見つかった多くの遺体の映像は、国際的な対露非難を増幅させた。

 特筆されるのは、兵力だけでなく、SNSの発信が状況を左右する力を持つようになったことだ。軍事力で劣るウクライナのゼレンスキー大統領はSNSを駆使し、現場から人道被害を訴えている。

 いつでも、どこでもスマートフォンで見ることができ、情報を簡単に共有できる。感情を揺さぶる映像や書き込みが瞬時に広がり、既存メディアの報道と共鳴することで発信力は強まる。

 世論の高まりを背景に各国は、ロシアへの大規模な経済制裁を迅速に決めた。ウクライナへの人道支援が強化され、欧米諸国は兵器の供与を拡大している。

 SNSが政治を動かすツールとして注目され始めた契機は、11年前の中東での民主化運動「アラブの春」だ。ウクライナで親露派政権が倒れた8年前の政変でも、反体制派が活用した。

 ロシアは2014年のクリミア編入で、偽情報の流布を軍事作戦と組み合わせる「ハイブリッド戦争」で成果を上げた。だが今回は不利な立場に追い込まれている。

 この間にSNSは爆発的に普及し、技術も大きく進歩した。今では、多くの市民が戦場の様子を簡単に発信できる。機械翻訳によって、外国の人々もメッセージを理解できるようになった。

 いつの時代も戦争にはプロパガンダ(宣伝)が付き物である。

 しかし現在は、インターネットで入手できる公開情報で真偽を検証できるようになった。ロシアは自国軍による残虐行為とされる映像について「虚偽だ」と主張したが、衛星写真と照合した民間団体が主張の矛盾点を暴いた。

 SNSの普及によって戦争の形は変わった。悲惨な実情を個人が世界に伝えることで、国家の非人道的行為に歯止めをかけることができるか。デジタル時代の市民の力が試されている。

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