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「ばれなかったら被害者いない」盗撮依存の恋人、ともに歩む再起の道

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再犯防止プログラムを一緒に受講する男性会社員と女性。右手の薬指にはペアリングが光っていた=神戸市中央区で2022年2月3日午後4時51分、中田敦子撮影(画像の一部を加工しています)
再犯防止プログラムを一緒に受講する男性会社員と女性。右手の薬指にはペアリングが光っていた=神戸市中央区で2022年2月3日午後4時51分、中田敦子撮影(画像の一部を加工しています)

 1年前、幸せな家庭を共に築こうとしていた30代の彼氏が警察に捕まった。「ばれなかったら、被害者はいない」とスマートフォンを手にし、スカートの中をのぞき見て記録する快楽に溺れていたことを知り、20代の女性は婚約指輪を外した。それでも、「過ちを繰り返したくない」と誓う彼氏のそばで、再起の道を歩むことに決めた。再犯率は4割に迫る盗撮。葛藤する2人の姿を追った。

スマホに盗撮動画300本

 2021年春、仕事帰りの男性会社員は西日本にある駅前のバス停でスカートをはいた女子大学生の後ろに並んだ。そして、スマホを忍ばせたトートバッグをスカート付近に近づけた。大学生が振り返ったためその場を離れたが、近くにいた私服警察官は見逃さなかった。「何してんねん」。県迷惑防止条例違反容疑で現行犯逮捕された。

 逮捕の1年半前、アダルトサイトの盗撮動画を見た会社員は「俺でもいける」と考えた。スマホのカメラのシャッター音を消すアプリを入手すると、電車内で正面に座った女性の下半身を撮影。誰にも気付かれなかった。自宅で見返した動画で下着が映っていることを確認し、「心臓の鼓動が止まらず、達成感と高揚感でいっぱいになった」。

 くせになった。その後は週2回ほどのペースで、駅のエスカレーターなどで盗撮を繰り返すように。当初は罪悪感を覚えたが「ばれなかったら被害者はいない」と考えるようになった。スマホにたまっていく動画を視聴しては撮影時のスリルを思い出し、盗撮を重ねた。逮捕された時点で、スマホにコレクションされた動画は約300本に上った。

 会社員は初犯で逮捕容疑も認めた。警察署で48時間勾留されたが、逃走の恐れがないと判断され釈放された。弁護士を通じて、女子大学生に40万円の示談金を支払い、事件は不起訴となった。勤務先にもばれなかった。

 会社員には恋人がいた。知人を通じた食事会で知り合った20代の女性だ。19年冬から始まった2人の交際は順調で、休日の度に旅行や食事に出かけていた。婚約指輪も一緒に買いに行って、婚姻届を出す日取りも決めていた。逮捕は2人の人生の節目の1カ月前だった。会社員は釈放後、女性に「ずっと前から盗撮をやめられず、警察に捕まった」と打ち明けた。

自分責め抑うつ状態に

 「私にも非があったのではないか」。精神状態が不安定になった女性は、精神科医から抑うつ状態と診断された。年上で落ち着いた雰囲気を醸し出す会社員の「全てを受け入れてくれそうな包容力」に魅力を感じていたが、「こんな事をする人とは付き合えない」と考えるようになった。

 毎日部屋にこもり、「盗撮」「加害者」「家族」のキーワードでツイッターを検索。「支えていこう」と思う時もあれば、「この人とは結婚すべきではない」と考え直す時もあった。心は揺れた。精神科医から「あなたのせいじゃない」と声をかけられ、落ち着きを取り戻す、そんな日々が続いた。事件から3カ月ほどたった頃、盗撮の常習者などが再犯を繰り返すことを防ぐためのカウンセリング施設が神戸市にあることを知った。

 精神科病院や兵庫県の加古川刑務所での勤務経験がある臨床心理士、中村大輔さん(38)が再犯防止に特化した心理教育プログラムを提供する「研心音」。利用者は生い立ちやコンプレックスと向き合う精神分析療法、考え方や行動を変える認知行動療法を半年から1年のスパンで受ける。11年に開設され、これまでに100人以上が利用していた。

 中村さんは「『大切な人』の存在が再犯のストッパーになる」とし、当事者だけでなく、家族や配偶者、パートナーらの参加を促してきた。女性は、会社員に「罪と向き合って」と、ともに施設に通うことを提案した。

10年で倍増、再犯率は36.4%

 警察庁の統計では、盗撮行為の検挙件数は4026件(20年)。10年前と比べ、倍増している。小型カメラが付いたスマホの著しい普及が背景とされる。そして、犯罪白書の特別調査(15年)によると、5年以内の再犯率は36・4%と…

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