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スリランカ人女性のウィシュマ・サンダマリさん(当時33歳)が名古屋出入国在留管理局(名古屋市)で収容中に亡くなってから1年が過ぎた。死去前の顕著な体調悪化を示す重要な検査結果が、幾重にも見過ごされていたことが国会で追及されている。検査結果を踏まえ、適切な医療措置を講じていれば、健康状態が改善された可能性がある。遺族は3月、ウィシュマさんが死亡したのは、入管が違法な収容を続け、必要な医療を提供しなかったためだとして、国に慰謝料などを求めて提訴しており、裁判でも争点の一つとなりそうだ。【上東麻子】
飢餓状態、腎臓・肝臓障害の疑い示す尿検査結果
ウィシュマさんは2020年8月に名古屋入管に収容され、21年3月6日に死去。問題とされているのが、死亡する約3週間前の2月15日に行われた尿検査の結果だ。
「ケトン体3+、たんぱく質3+、ウロビリノーゲン3+」。専門家によると、ケトン体は糖が不足するとできる物質で「3+」は基準値を大幅に上回っていることを指し、ウィシュマさんが脱水や栄養失調で飢餓状態だったことを示すという。「たんぱく質3+」は腎臓機能の異常、「ウロビリノーゲン3+」は肝臓障害の疑いを示すという。
すでにこの頃、ウィシュマさんは度々嘔吐(おうと)して食事を取れないことが続き、体のしびれを訴え、トイレや移動に介助が必要だったことが、出入国在留管理庁が同年8月に発表したウィシュマさん死去問題の最終報告書に記されている。
最終報告書を読み、尿検査結果などを見た内科医の今川篤子・あびこ診療所所長は「いずれも大幅に基準値を超えており、この結果を見てすぐに採血をすべきでした。そうすれば肝臓、腎臓の障害がおそらく分かったはずです」と指摘する。
同じく最終報告書などを読んだ、首都圏で在宅医療を行う木村知医師も同様の見解を示しつつ、「この結果は非常に重要なもので、結果を基に迅速かつ適切に対処していれば、ウィシュマさんは亡くならずに済んだのではないでしょうか。入管施設という診療体制や医療資源に制約がある施設であっても、採血すればいいだけのことです。この極めて簡単なことさえ行われなかった理由が分かりません」と話す。
嘱託医、「検査結果の記憶定かではない」
しかし、この尿検査の結果は名古屋入管内で見過ごされ、その後、外部病院の精神科を受診した際にも情報提供されなかった。なぜそんなことが起きたのだろうか?
最終報告書によると、名古屋入管の診療室の看護師は調査チームのヒアリングに対して、昨年2月18日のウィシュマさんの診療の際に尿検査の結果を嘱託医に伝えたと話す一方、嘱託医は「検査結果を把握したかどうかの記憶は定かではないとした」とある。結局、嘱託医は「体調不良はストレス等による心因性のものである可能性があると判断した」ため、精神科を受診するよう指示。死亡2日前の3月4日に受診した外部病院の精神科医にも、この検査結果は知らされなかった。
この点については、今年3月2日に行われた衆院法務委員会で、米山隆一議員(無所属)も追及している。尿検査で「飢餓状態」を示す結果が出たにもかかわらず、追加の内科的な検査が行われなかったことについて、最終報告書では週2回、2時間ずつの「制約された医療体制にこそ問題があった」と説明している。米山議員は同委で、名古屋入管の21年2月18日の診療件数が2時間で15件だったという、法務省側に確認していた数字を紹介。医師でもある米山議員は「1人の患者に対して診療時間が8分もあり、医療体制は逼迫(ひっぱく)していない。それなのにケトン体3+の状態を見逃した。診療した医師の医療過誤の可能性が高い」と指摘した。
だが、入管側は、最終報告書では「制約された医療体制」の問題が指摘され、改善を求められたことを改めて説明。その上で「報告書で、個々の診療の逼迫について指摘されているとは考えていない」などと繰り返し、答弁はかみ合わなかった。
尿検査は、嘱託医が自ら指示したものであり、木村医師は「見たのか見ていないのか記憶がないというのは腑(ふ)に落ちない。…
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