アカゲザルのイソコが教えてくれたこと 「老い」見せる動物園

園に咲いたサクラをもらったイソコ=2020年春(京都市動物園提供)

 愛らしく動き回る赤ちゃんや、仲むつまじい親子――。動物園とは、そうした「カワイイ」情報ばかりを発信していると思っていた。あるインスタグラム(インスタ)の投稿を見るまでは。そこには年老いて毛が薄くなり、痩せ細った体で、飼育員に栄養剤を飲ませてもらっているサルの姿。京都市動物園のインスタには「ヨボヨボ」になった動物のありのままが投稿されている。モフモフではないし、カワイイともちがう。なのに目が離せない。どうして動物園はヨボヨボの動物を見せ、見る側は心をつかまれるのだろうか。【山田奈緒】

 「本当に頑張ったね、おつかれさま ブラボーです」

 2021年9月、アカゲザルの「イソコ」が43歳4カ月の生涯を閉じた。園は老いゆく姿をネット交流サービス(SNS)やブログで発信し続け、イソコの最期を知らせるインスタの投稿に、こんな言葉を添えた。

 昭和、平成、令和を生きたイソコ。飼育下での平均寿命は30年弱とされ、人間でいえば、ゆうに100歳を超える大往生だった。

 アカゲザルは、ニホンザルよりやや小柄でしっぽが長い。群れで行動するため、園内には「サル島」がある。イソコもそこで暮らしていたが、最期までの数年は「老猿ホーム」に入居した。

 「イソコたち、しんどそうやな」。サル島を担当する飼育員がそう感じ始めたのは16年のころだったという。

 高齢のサルたちは背中が曲がり、関節が固くなっていた。高低差の大きなサル島では、思うように移動できない。好物の甘いバナナは他の猿にさらわれてしまう。体毛も減り、寒さがこたえているようだった。

 16年秋、新しいゴリラ舎にゴリラが引っ越したあとの類人猿舎の一室を改修し、イソコを含む高齢のアカゲザル4頭を移した。担当飼育員の板東はるなさんは「おばあちゃん、おじいちゃんのサルたちが安全に過ごせるように、という自然な判断でした」という。

 「老猿ホームはじめました」。園のブログでそう紹介した。小さな動物園にはバックヤードがあまりなかったという事情もある。「老猿ホーム」と銘打って、あえて老いを見てもらおうとの狙いもあった。

 「見栄えするかといったら、毛並みなどは若い猿に劣ります。でも老いも含めて一生なので」と話す。

ご長寿で人気者に

「老猿ホーム」のおばあちゃんサルたち。右からイソコ、イソコの妹のビート、イソコと仲良しのゴンゴ=2021年1月(京都市動物園提供)

 「老猿ホーム」はバリアフリー仕様に改修されている。冷暖房完備で、緑豊かな屋外グラウンドに自由に出入りでき、大きな段差にはスロープもある。

 今の「入居猿」は、いつも口が半開きで怒りっぽいビート(37)と、垂れ耳でおっとりしたゴンゴ(31)の2頭。いずれもアカゲザルの雌で、ビートはイソコの妹だ。記者が訪ねた4月中旬は、最高気温の予報が28度という暑い日だったが、屋外グラウンドでのんびりとひなたぼっこをしたり、果物を食べたり、思い思いに過ごしていた。

 この老猿ホームの入り口にイソコの写真がたくさん張ってあった。在りし日のいろんな表情を写した「思い出展」だ。感慨深げに写真を眺め、イソコをしのぶ来園者もいた。

 サル島にいたころのイソコは、あくまで群れの一員で、人気者というわけでもなかったという。老猿ホームに転居後、「ご長寿」で注目を集めた。好きな果物も思いっきりほおばれる暮らしを続け、20年4月で42歳に。飼育下のアカゲザルで世界最高齢となり、ギネス世界記録に認定された。

 園内で誕生会を開くと、メッセージボードに「長生きしてね」などと来園者からお祝いのコメントが相次いだ。「スーパーおばあちゃん」として園の人気者になった。

 だが、老いは進む。この誕生日のころから、担当の板東さんはイソコの認知機能が衰えてきているのではと感じていた。

 ある雨の日、イソコは屋外グラウンドでぽつんと座っていた。「どうしたどうした、めっちゃぬれてる」。イソコは、いつも座ら…

園に咲いたサクラをもらったイソコ=2020年春(京都市動物園提供)

「老猿ホーム」のおばあちゃんサルたち。右からイソコ、イソコの妹のビート、イソコと仲良しのゴンゴ=2021年1月(京都市動物園提供)

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