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映画界で性加害の告発が相次いでいる問題で、俳優の水原希子さん(31)らが「インティマシーコーディネーター」の普及を訴えている。性的なシーンがある作品で、俳優と監督の間に入り、コミュニケーションを取りながらハラスメントを防止する調整役だ。「#MeToo」運動をきっかけに、米国で生まれ、世界各国・地域で急速に需要が高まっている。日本にはまだ2人しかいないという。一体どんな仕事なのか。その2人のインティマシーコーディネーターに詳しく聞いた。【大沢瑞季】
「インティマシー」とは、英語で「親密な」という意味。性別に関わらず、俳優がヌードになったり、キスシーンやベッドシーンがあったりする作品に関わり、意に沿わない演技を監督から強要されることを防ぐ。
「週刊文春」(4月21日号、28日号)で、水原さんは「共演の年上の役者さんが前貼りを拒否して、実際には下半身が硬直した状態で撮影に入り、友人の女優さんがとても理不尽な気持ちで撮影をしなくてはいけなかった」「(インティマシーシーンの撮影で)必ず誰かは自分の立場やポジションを利用して、必要ない中で、中に入ってきたりする」「撮影が始まる直前、プロデューサーからアンダーヘアを出すようにと要求された」などとこれまでの経験を明かしている。
水原さんはその上で、「積極的にインティマシーコーディネーターを採用していただき、制作側も演者側もその存在を理解していくことで、よりアップデートされた健全な作品づくりをしていただけたら」と訴えた。
是枝裕和さんら6人による「映画監督有志の会」も、日本映画製作者連盟(映連)へのハラスメント防止のための提言書の中で、インティマシーコーディネーターの普及を求めている。
米国ではHBOドラマから
米国では、2017年に大物プロデューサーが告発された「#MeToo」運動の高まりを受けて、有料テレビHBOのドラマ「The Deuce」で初めてインティマシーコーディネーターが起用された。
現在、HBOは、性的なシーンには必ずインティマシーコーディネーターを起用すると表明している。
米国の俳優らが加入する「米映画俳優・テレビ・ラジオ芸能人組合(SAG―AFTRA)」は、性的なシーンでは必ずインティマシーコーディネーターを入れるルール作りに動いている。コーディネーターは北米を中心に全世界で約100人(20年現在)しかいないため、今後ますます需要が高まりそうだ。
「嫌なことは嫌と」
日本での初導入は、水原さんが主演するネットフリックスの映画「彼女」(21年配信)。女性2人の逃避行を描いたストーリーで、性的なシーンが多い。水原さんが導入を希望したが、20年の撮影当時、日本にはインティマシーコーディネーターはいなかった。そこで、日米合作の映画や舞台などで15年以上通訳として活動していた浅田智穂さん(46)に、ネットフリックス側からインティマシーコーディネーターの資格を取ってみないかと声がかかった。その講習には、テレビのコーディネーターとして活動していた西山ももこさん(42)も一緒に参加した。
では、一体どんな仕事内容なのだろう。浅田さんは「一言でいうと、映像制作において、俳優の身体的・精神的安全を守りつつ、監督の描いているビジョンを最大限実現するためにサポートするスタッフです」と説明する。
映画業界では、キャスティングや現場での指揮に監督やプロデューサーが強い権限を持つ。閉鎖的な職場環境に長時間労働も相まって、ハラスメントが起きやすい。
浅田さんは「潜在的に存在するパワーバランスを崩し、声をあげられない弱い立場にある俳優やスタッフたちが、嫌なことは嫌だといえる環境を作る。俳優が安心して、お芝居に集中することが、いい作品につながると考えています」。
性描写の説明を聞くところから
具体的には、まず脚本をもらい、インティマシーシーンを抜粋する。ト書きには「AとB ここで愛し合う」というように詳しい説明がないことが多く、…
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