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岐路のグローバル経済 分断広げぬ仕組み新たに

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 冷戦終結後、拡大してきたグローバル経済が岐路に立っている。

 ロシアのウクライナ侵攻で、供給網の混乱が世界に広がった。欧州を中心に石油や天然ガスの供給不安が強まり、身近な製品にもしわ寄せが生じている。

 国内では、歯科治療に使う銀歯材料の公定価格が8・4%引き上げられた。原料のパラジウムが最高値を更新したのを受けた緊急措置だ。世界生産の4割がロシアに集中しているため、安定して調達できるか懸念が広がった。

 侵攻や対露制裁の影響で、今年の世界貿易量は前年比3・0%増にとどまると世界貿易機関(WTO)は予測する。昨年の9・8%増から大幅な減速だ。

 「世界経済を敵対するブロックに分割することは、繁栄にも平和にもつながらない。それが歴史の教訓だ」。WTOのオコンジョイウェアラ事務局長が警告する。

ブロック化の懸念強く

 冷戦が終わると、東西の経済圏が融合する動きが進んだ。1995年にWTOが発足し、2001年に中国、12年にはロシアが加盟した。

 新興国の労働力を取り込んだ効率的な供給網が構築され、世界経済は成長し続けた。互いに依存する関係を築いて利益やリスクを共有すれば平和を保てる。そうした期待の上に成り立つ繁栄である。

 だが、グローバル化のひずみが顕在化し、目算は狂った。

 新興国との競争にさらされた先進国では、雇用不安や格差が社会問題となった。米中対立が続く中、ウクライナ危機が起き、民主主義や人権を尊ぶ国と権威主義的な国との分断が深まっている。

 通商政策では「自由で開かれた経済」という理念が後退し、安全保障の論理が台頭している。

 米国が提唱する「インド太平洋経済枠組み」には、そうした考え方が前面に出ている。半導体など重要物資の供給網を、価値観を共有するアジアの国や地域とだけで構築する構想だ。

 中国に対抗する戦略の一環で、相互に市場を開放して恩恵を分かち合う発想からは程遠い。

 先端技術は競争力や安全保障に直結する。政府の関与は必要だが、貿易や投資を必要以上に萎縮させれば損失は大きい。

 そもそも、多くの国や地域が供給網でつながる今、経済関係を完全に切り離すことは非現実的だ。

 政策運営が地政学的なリスクに振り回されるようになれば、企業や投資家は先行きを見通せなくなる。投資や雇用が手控えられ、経済活力が失われる。

 通商問題に詳しい木村福成・慶応大教授は「当面は政府が管理する部分と自由に貿易する部分が共存する形になるだろう。その境界線を明確にできなければ経済が混乱する」と指摘する。例えば半導体なら、最先端技術と汎用(はんよう)品とで対応を分ける政策が求められる。

公正で透明なルールを

 その際に欠かせないのは、公正で透明性の高いルールを作ることだ。本来ならWTOがそうした役割を担うべきだが、先進国と新興国との対立を解消できず、機能不全の状態が続く。世界経済の全体構想を描いてきた米国も修復に動かない。

 だからといって代替できる組織は見当たらない。すべての加盟国による合意は困難でも、問題意識を共有する一部の国や地域が議論を主導し、選択肢を示すことはできるはずだ。世界の分断に歯止めをかけ、経済の活力を保てる仕組みに刷新する必要がある。

 自由貿易体制を補完する地域の経済連携を拡大・深化させる取り組みも続けるべきだ。

 環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への加盟申請が相次いでいるように、アジア太平洋では経済統合のダイナミズムが維持されている。価値観や経済システムを異にする国や地域が協調するモデルにもなるだろう。

 国際社会が協調する仕組みを欠いたままでは、気候変動やデジタル社会の基盤作りといった課題にも対応できない。

 日本は安全で信頼できるデータ流通のルール作りを主導する立場にある。説得力のある政策を提案し、関係国の利害を調整しながら、成果を重ねることが肝要だ。

 グローバリズムの副作用に目配りしつつ、自由貿易体制の理念を掲げて開かれた経済を堅持する。そうした取り組みを主導することが、日本をはじめ主要国の責務である。

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