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ロシア軍の侵攻を受け、ウクライナから国外に逃れた人々は500万人以上に上る。危機にひんした人たちを保護し、支援することは、各国の責務だ。
日本政府も積極的に受け入れる方針を打ち出している。4月末時点で820人に上る。
日本で暮らす民族楽器奏者、カテリーナさん(36)の母マリヤさん(68)も、その一人だ。3月下旬、2人は羽田空港で抱き合い、無事を喜んだ。
首都で1人暮らしをしていた母は、祖国が戦場となったことに大きなショックを受けていた。カテリーナさんは日々、音楽を通じて平和を訴えつつ、なるべく一緒に過ごすようにしている。
戦争は、いつ終わるか分からない。母は日本語が話せず、避難生活が長引けば心配事も増える。「日本が受け入れてくれたのはありがたいが、サポートを続けてほしい」とカテリーナさんは話す。
ウクライナ支援契機に
政府はウクライナからの避難者に、就労が可能な1年間の在留資格を認めることにした。身寄りのない人には一時滞在先を用意し、生活費や医療費を支給する。日本語習得や職業訓練も手助けする。
こうした取り組みが、今回だけにとどまってはならない。
昨年2月の国軍クーデターで帰国できなくなったミャンマーの人々について、政府が在留を認める緊急措置を取ったのは、3カ月以上たってからだった。
支援する弁護士によると、在留資格の期間が6カ月と短いうえ、就労が週28時間以内に制限されている人も多い。
イスラム主義組織タリバンが支配するアフガニスタンから逃れた人たちに関しては、身元保証人がいる場合に限り、1年間の在留資格を認めている。
いずれも、生活や住居の支援はない。政府は「個別の情勢を踏まえた措置だ」と説明しているが、筋が通らない。帰国すれば危険が及ぶことに変わりはなく、出身国によって対応に差を付けるべきではない。
過去には、ベトナム、ラオス、カンボジアから、計1万人以上の「インドシナ難民」を受け入れた例がある。その期間は1978年からの28年間に及んだ。
東南アジアの政情不安を懸念する米国からの強い要請があったといわれる。
難民問題に詳しい阿部浩己(こうき)・明治学院大教授は、ウクライナからの避難者受け入れについても「極めて政治的な判断だ」と語る。欧米諸国との共同歩調を明確にするものだと指摘した。
これまでの日本の対応は「難民鎖国」と批判されてきた。難民と認定されれば、長期滞在が可能になり、広く権利も保障されるが、認定率は欧米諸国に比べて著しく低い。
母国に戻れば迫害を受ける恐れがあるかどうかの審査が、厳しすぎるためだ。戦争から避難してきたというだけでは、難民として扱っていない。
「人間の安全保障」こそ
武力紛争から逃れた人も広く難民として扱うのが、世界のすう勢である。
古川禎久法相は難民に準じた新制度を検討すると表明している。しかし、従来の延長線に過ぎなければ、受け入れは進まないだろう。国際的な視点を踏まえた制度づくりが急務だ。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のまとめでは、2020年末時点で世界の難民は3000万人を超えた。7割以上は近隣国に逃れている。
受け入れ国の負担を軽減するため、UNHCRは別の国への移住促進に力を入れている。米国やカナダなどが積極的に応じる一方、日本はここでも極めて消極的だ。
国家単位ではなく、個々の市民の生活や尊厳を守る「人間の安全保障」を、日本は外交の柱に位置づけている。
その取り組みは、国連への資金拠出や政府開発援助(ODA)が中心だ。それに加え、助けを求めてくる人に手を差し伸べ、受け入れていくことが求められる。
NGO「難民を助ける会」会長の長(おさ)有紀枝・立教大教授は「国際社会で応分の負担をすることを政府が決断し、国民の理解を得る努力をすべきだ」と指摘する。
ウクライナの人々を支援する動きが広がる。難民への意識も高まっている今こそ、日本の「鎖国」政策を改める時だ。