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ロシアのウクライナ侵攻を巡り、在日ロシア大使館が「ブチャ虐殺はでっち上げだ」とする動画をネット交流サービス(SNS)に投稿している。だが、「通りには遺体が映っていない」と主張するその動画を毎日新聞が衛星画像などと比較して分析したところ、多数の遺体が見つかった「死の通り」とは別の通りで撮影されたものだった。ロシアがそのような動画を投稿する意図とは――。【賀有勇、菅野蘭、國枝すみれ、佐野格、八田浩輔】
「ブチャ市の真実」ロシア大使強調
動画の題名は「ブチャ市の真実」。在日ロシア大使館がフェイスブックやツイッターの公式アカウントで4月9日に投稿し、ウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊のブチャで多数の民間人の遺体が見つかったことを「ウクライナの自作自演だ」と批判している。
ロシア国防省は3月30日にロシア軍がブチャから撤退したと説明しており、動画は撤退後にウクライナ軍が公開した動画などをロシア側が倍速再生したり別の動画を挿入したりするなどして、3分程度に編集して作ったとみられる。ウクライナ軍が撮影した元の動画は約8分で、4月2日に動画投稿サイトに投稿された。
「ブチャ市の真実」の動画は、在日ロシア大使館のガルージン大使が4月9日放送の「報道特集」(TBS)のインタビューを受けた際にも提示した。
編集内容が完全に一致しているかは不明だが、ガルージン氏は番組で、動画が撮影された通りが、多数の民間人の遺体が見つかった通りと「同じ通りです」と説明。「誰もいないんです。遺体とか」。映像に一見して遺体が映っていないことを理由に「(ロシア軍が)無防備の市民を殺して街の通りに置いたという事実はない」「つまり明らかにウクライナ軍・当局による挑発で、自作自演のでっち上げ」と主張した。
動画の撮影場所は1・5キロ離れた別の通り
一方、欧米メディアは衛星画像などの分析を基に、ブチャがロシア軍の支配下にあった3月中旬から、ヤブルンスカ通りに沿って複数の民間人の遺体が野ざらしにされていた、と指摘していた。
真っ向から分かれる主張。毎日新聞は「オシント」(オープンソース・インテリジェンスの略)と呼ばれる公開情報を用いた分析手法で検証した。
ロシア側が編集したウクライナ軍撮影の元の動画と、在日ロシア大使館が公開した「ブチャ市の真実」の撮影場所について分析。二つの動画に映った建物や風景、道路標識などを手がかりに、グーグルアースで公開されている衛星画像で7カ所の地点を特定した。すると、そもそもウクライナ軍が撮影した元の動画は、多数の市民の遺体が野ざらしにされ、「死の通り」と呼ばれることになるヤブルンスカ通りから最低でも約1・5キロ離れた別の通りで撮影されたことが判明した。
5月上旬にブチャに入った毎日新聞記者の取材に対しても、複数の住民がロシア兵による無抵抗の市民への銃撃など「占領下での虐殺行為」を証言している。
一方、国際NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」(HRW)が4月21日に公表した、ブチャの民間人殺害についての現地調査報告書でも、殺害された市民が路上で野ざらしになっていた地点はヤブルンスカ通りであり、欧米メディアの指摘と矛盾せず、動画の撮影地点とは離れていたことが裏付けられた。
HRWは、ブチャがロシア軍に占拠されていた3月から電話で市民らに聞き取り調査を開始。4月4日からは現地で活動し、目撃者らが撮影した写真やビデオ、衛星写真などの解析から、ロシア軍によって市民が殺害されたとされる地点を記した地図を作製した。その結果、多くの人が路上で殺害されたと認定した地点はヤブルンスカ通りに沿って集中していた。
ウクライナ軍が公開した動画が撮影された通り周辺でも市民2人の殺害があったと認定しているが、埋葬されるなどして、遺体が路上に野ざらしになっている状態ではなかった。HRWの担当者は「ロシアの動画の内容は我々の現地調査員が現地で確認した現状と全く異なるもの」と述べた。
毎日新聞はロシア大使館にも取材を申し込んだが、5月11日までに回答は得られていない。
国内世論を意識 否定を重ねる情報戦
在ロシア日本大使館の元防衛駐在官で、防衛省統合幕僚監部のサイバー企画調整官も務めた佐々木孝博氏は「ブチャ市の真実」について、ロシアが自国に不利な情報を隠し、印象操作するプロパガンダ動画だとの見方を示した。そのうえで「虐殺との指摘を急いで否定するため、完成度の低いものになったのでは」と分析した。
ロシア側が編集した動画にもキーウからブチャに向かう途中とみられる場所に遺体が映ってはいるものの、倍速で編集されているため、再生速度を落として凝視しないと見つけることは難しい。一方で、ロシア側の動画には、ウクライナ兵とされる人物が一般市民の殺害を試みるような様子を示す、真偽不明の短い動画も挿入されている。佐々木氏は「都合の悪い情報は倍速再生に変更し、切り取る。そのうえで、ウクライナ側の蛮行であることを示す情報が弱いとみて、その部分を付け足したのではないか」と語る。
佐々木氏は、ロシアが最も意識しているのは自国の国内世論だと説明。「情報戦は認めたら最後。否定に否定を重ねていく」と述べ、今後もロシアが情報戦に神経をとがらせていくとの見方を示した。
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