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ウクライナ侵攻

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻から1年。長期化する戦闘、大きく変化した国際社会の行方は……。

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沈没のロシア旗艦が水中遺産? ウクライナ、戦果誇示と別の意図

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沈没した露軍巡洋艦「モスクワ」とされる画像=2022年4月18日、ウクライナのゲラシチェンコ内相顧問のテレグラムから
沈没した露軍巡洋艦「モスクワ」とされる画像=2022年4月18日、ウクライナのゲラシチェンコ内相顧問のテレグラムから

 4月に沈没したロシアの黒海艦隊旗艦「モスクワ」について、ウクライナ政府が水中文化遺産に登録した。交戦国の艦船を遺産登録するのは異例の行動といえる。ウクライナの狙いはどこにあるのか。

 黒海に展開していた巡洋艦モスクワは、ウクライナ南部を攻撃するロシア艦隊を統括していたとみられるが、4月13日に爆発が起こり、その後に沈没した。ロシア国防省は1人が死亡し、27人が行方不明になったと発表。ロシア側は艦内で火災が起きた後に弾薬が爆発したと説明しているが、ウクライナ側は自軍が発射した地対艦ミサイル2発が命中したと主張している。

 詳しい沈没原因が判明していないが、ウクライナメディアは黒海艦隊のオシポフ司令官が解任、逮捕されたと報道。ロシアが戦術面にとどまらずに政治的な痛手を負う一方で、ウクライナにとっては国威高揚の材料となった形だ。

 水中考古学に詳しい、一般社団法人うみの考古学ラボ代表理事の佐々木蘭貞氏は「第二次世界大戦以降では最大の戦果の一つだ。実際に戦闘でこれだけの規模の船が沈んだのは珍しい」と話す。

見方① 海の歴史に新たなページ

 ウクライナ政府はどのような法的根拠に基づき、登録手続きを取ったのかを明かしていない。それでも同国も批准している国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「水中文化遺産保護条約」に基づき、行動したと推測されている。

 この条約はトレジャーハンターや鉱物採掘などから水中の考古学遺産を保護する内容。2001年に採択されて、09年に発効し、71カ国が批准・受諾している。領海内の遺産の保護や商用目的の侵入防止措置などが明記されており、遺産に対する排他的な権利を持つとしている。

 遺産登録に際して、ウクライナ国防省はフェイスブックで「(南部の都市)オデッサから80マイル(148キロ)離れている。黒海の底に沈んだ有名な巡洋艦だ」と紹介した。登録番号は2064番だという。

 「モスクワ」が沈んだ黒海の底には、古代や中世などの歴史を今に伝える貴重な文化遺産が多く眠る。佐々木氏は「ウクライナにとっては、いにしえから続く海の歴史に新たな一ページを刻んだという認識だろう」との見方を示す。

見方② 「海を持つ国」アピール

 登録を進めたウクライナの意図については、国際法を外交攻勢に積極的に使う狙いともみられる。ロシアから侵攻を受けると、ウクライナは2日後の2月26日、国際司法裁判所(ICJ)に対し、武力行使の即時停止を求め提訴していた。

 国際法に詳しい神戸大国際海事研究センターの中田達也准教授は、ゼレンスキー政権の行動について「国際法を援用できる措置を探し出して戦略的に使っている。その一つが今回の指定の動きだ」と指摘。ロシア軍が黒海やアゾフ海の沿岸地域の制圧を進めており、中田氏はウクライナが「内陸国化させられる危機に際して、海を持っている国としての管轄権を国際社会に認知させる意図もある」と分析する。

 沈没した「モスクワ」を後世に戦争を伝える遺産として活用することも考えられる。中田氏は「しっかりとした目的で沿岸国としての管轄権を行使し、水中考古学のルールに従うならば、ロシアの核兵器による威嚇より正当性はある」と語る。

見方③ プーチン氏への意趣返し

 一方で、水中文化遺産への登録は、自国に侵攻してきたロシアのプーチン大統領への「意趣…

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