「子どもを育てたい」 同性カップルに「里親」という道
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子どもを育てたい--。そう願うLGBTなど性的少数者に、「里親」という選択肢があることが徐々に知られてきている。家族の形は多様化しており、実際に里親になることを検討している女性カップルに取材すると、家族として子どもと暮らしたいという希望を語った。また、里親に子どもを預ける児童相談所(児相)などに対し、性的少数者への委託などについてアンケート調査を行った白井千晶・静岡大教授(家族社会学)に話を聞くと、不安を持っている様子も浮かんだが、肯定的な声が聞かれたという。【藤沢美由紀】
虐待を受けたり、家が貧しかったり、親が病気だったり……さまざまな事情で実の親と暮らせず、社会的な養護が必要な子どもたちがいる。里親とは、そうした子どもについて、児童相談所から養育委託を受け、家庭で育てる人を指す。里親になるための主な要件は、経済的に困窮していないことや里親研修を修了していることなど。法律上、婚姻しているかどうかは要件になっておらず、同性カップルを排除していない。
神奈川の女性カップル「子を持てるかも」
実際に里親になることを検討している同性カップルを訪ねた。
神奈川県内で同居する女性カップル、真理さんと綾子さん(ともに仮名、50代)。2人は30代後半で出会い、交際して15年ほどになる。年上の真理さんは子どもが大好きだが、年齢なども考え、持てるとは思っていなかった。
一方、綾子さんは子どもへの思いが強かった。人数の多い家庭で楽しく育った経験もあり、当然のように子どもを持ちたいと考え、20代の頃にはベビーシッターのアルバイトもした。子どもを持つには異性と結婚しなければという思いから、無理して好きでもない異性とデートするなど「すごく頑張った」と言う。その一方で、同性にひかれる正直な気持ちがあり、長く葛藤を抱えていた。
日本では現在、法的に同性同士の結婚はできないが、2人は人生をともに歩むパートナーと互いに認め合い、数年前に親族を招いて結婚式も挙げた。現在、それぞれ会社員として働く2人が暮らすのは一軒家で、スペースの余裕はある。落ち着いた生活の中、2人が2020年末に偶然目にした自治体の広報誌で知ったのが、里親制度だった。
「子どもを持てるかもしれない」。すぐに自治体の児相に連絡し、説明を受けに行った。同性同士のカップルであることを告げ、里親登録への流れの説明を受けた際、里親の要件に当てはまらない点があるかを尋ねると、職員は「ありません」と答えたという。
里親希望者を対象に児童養護施設で行われた初めての研修では、参加者同士のグループディスカッションもあった。その際も同性カップルであることを自己紹介で伝えたが、他の参加者などから違和感のある反応はなかったという。
「信頼できる受け皿になれれば」
児相とのやり取りや里親研修の中では、同性カップルであることで支障を感じることは何もなかったと話す2人。一方で、児相の担当者との面談で、「子どもが帰宅した時に家で迎えてあげてほしい。共働きだと委託はかなり難しい」と告げられた。仕事を辞めることは考えにくく、またコロナ禍の影響で養護施設での里親研修の日程が決まりにくくなったことなどもあり、今は手続きを進めることを保留している。
真理さんは言う。「自分で産まなくても、次の世代のために何かできたらという思いは強くあります。里親を求めている子どもの中には、性的少数者の子もいるでしょうし、いろいろなタイプの里親がいて、信頼できる大人として受け皿になれたらと願います」
実の親と暮らせぬ子 国が「里親」推進
同性カップルが子を育てる場合、過去の結婚で生まれた連れ子を育てたり、第三者からの精子提供を受けるなどして子を産んだりすることが多いが、近年、里親になるという方法が知られつつある。
血縁ではない子どもを育てる方法には、里親の他に「養子縁組」もある。養子縁組には、「特別養子縁組」と「普通養子縁組」の2種類あるが、虐待などで実の親と暮らせない子どもを法的に実子と同じ関係にする特別養子縁組は、法律婚の夫婦でなければできず、同性カップルや事実婚の夫婦はできない。一方で、普通養子縁組は、幼い子を養子とする場合は親族など知り合いの子を対象とすることが多い。
厚生労働省によると、実の親と暮らせずに施設や里親家庭で暮らす子どもの数は、全国で約4万2000人(20年度)。そうした子どもの約8割は、児童養護施設や乳児院など施設に入所しており、施設以外の里親などの元で過ごす子の割合は22・8%(21年3月末)で、施設への依存が続いてきた。欧米の主要国では、実の親と暮らせない子たちの多くは里親と暮らしているが、日本ではまだ少なく、里親の成り手も不足している。
こうした状況も踏まえ、厚労省は、16年の児童福祉法改正で「より家庭に近い環境での養育の推進を図る」などと「家庭養育」優先を打ち出し、家庭的な養育ができるとして、里親や特別養子縁組などを促進している。
同性カップルについては、大阪市が男性カップルを「養育里親」として認定したケースが17年4月に明らかになった。全国初とみられ、大きく報道された。塩崎恭久厚労相(当時)も同月の記者会見で「同性カップルでも男女のカップルでも、子どもが安定した家庭でしっかり育つことが大事で、それが達成されればありがたい」と歓迎した。
性的少数者への委託 児相に調査
実の親と暮らせない子どもを里親に預ける児童相談所などは、性的少数者への委託をどう考えているのだろうか。
里親制度などに詳しい白井教授らは昨年2月、全国の児相や、養子縁組をあっせんする民間団体に、性的少数者への里親委託や養子縁組について、相談の状況や認識などを聞くアンケートを実施。調査対象にした児相238カ所のうち100カ所、養子縁組をあっせんする21団体のうち13団体から有効回答を得た。
児童福祉法に基づく「里親」には四つのタイプがあり、そのうち子どもを一定期間育てる「養育里親」について、「なりたいという相談を受けたことがある」という児相の割合は、「同居している女性カップル」からが6%、「同居している男性カップル」からが5%だった。「法律婚をしていないトランスジェンダー(出生時の戸籍の性別とは異なる性別を自認する人)とそのパートナー」から相談があった児相は4%だった。
白井教授は「それぞれ数としては少なく見えるが、そもそも性的少数者自身が子を育てるイメージを持っていないことが多い中、むしろニーズがあることが分かった」と言う。
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