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ウクライナ侵攻

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻から1年。長期化する戦闘、大きく変化した国際社会の行方は……。

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ウクライナ隣国、東京・モルドバ料理店 平和いとしみ、杯交わす

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調理場でカメラを向けると、笑顔を見せるモルドバ出身のディアナさん(右)と夫の倉田昌明さん=東京都葛飾区で2022年4月30日、宮武祐希撮影
調理場でカメラを向けると、笑顔を見せるモルドバ出身のディアナさん(右)と夫の倉田昌明さん=東京都葛飾区で2022年4月30日、宮武祐希撮影

 ロシアのウクライナ侵攻で多くの隣国が避難民を受け入れている。その一つが「欧州の貧国」と言われ、ウクライナの南西側にあるモルドバだ。これまでに自国の人口の16%にあたる約41万人が押し寄せた。そんな支援国が、ロシアの次の「標的」になる可能性もあると聞く。そもそも、どんな国なのだろうか。「日本に1軒だけ」という東京のモルドバ料理専門店を訪れた。

 東京都葛飾区のJR亀有駅から徒歩5分。店先に青・黄・赤の国旗がはためくモルドバ料理店が「NOROC(ノーロック)」だ。戸を引くと、かすかなスパイスの香りが鼻をくすぐる。「いらっしゃい」。店主の倉田昌明さん(56)と妻でモルドバ出身のディアナさん(43)が迎えてくれた。メニューは30種類以上の家庭料理で、ディアナさんは「どれもお母さんとおばあちゃんの味。素材を生かした家庭料理です」とほほえむ。

 <モルドバにいるウクライナ避難民へ日本から寄付を>。店の片隅には、人道支援の募金箱が置いてある。ディアナさんは売り上げの一部も、ウクライナを支援する友人に送金している。店では笑顔で接客するが、故郷や隣国への思いは片時も離れることはないようだ。

 訪ねたのはゴールデンウイークただ中の4月末。その直前、モルドバ東部にある「沿ドニエストル共和国」を名乗る地域で、爆破事件などが相次いだ。この地域では30年前、親露派が分離独立を宣言し、今もロシアの実効支配が続く。日本政府はこれを受け、この地域に渡航中止勧告を出した。

 モルドバは、プーチン露大統領がロシアの勢力圏と見なす国の一つとされる。そのため、ロシアが介入する危機感が一部で広がっているという。「ウクライナと同じになったらと思うと、怖い」。軍事侵攻の話になると、ディアナさんは顔を曇らせる。祖国では今も、母が住み続けており、「何かあれば、妹の住むドイツに逃げてほしい」と願う。

 モルドバはウクライナとルーマニアに挟まれた小国で、旧ソ連が崩壊した1991年に独立した。面積は九州より小さく、人口は約259万人。人口の約4分の3がモルドバ人(ルーマニア系)で、ウクライナ人やロシア人も住んでいる。

 モルドバ経済に詳しい吉井昌彦神戸大教授によると、2014年までは欧州最貧国だった。しかし、15年以降の最貧国はウクライナで、モルドバはそれに次ぐという。国民1人あたりの国内総生産は日本円で約59万円。仕事が少ないため、出稼ぎに出る人が多い。19年の出国先はロシアが半数以上で、両国の結びつきは強い。

 「モルドバにはロシア人もウクライナ人も住んでいて、友達もたくさんいる。みんな兄弟なのに、戦争はおかしい」。そう憤るディアナさんの身近でも、人間関係に亀裂が見られる。…

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【ウクライナ侵攻】

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