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「名器ストラディバリウスが、うんともすんとも鳴らない」「4拍子の1拍目を、ずっと間違えていた」「歌を先導するのは旋律楽器ではない」……。ヴァイオリニスト古澤巖の口から、刺激的なフレーズが次々と飛び出した。古澤といえば、葉加瀬太郎や雅楽の東儀秀樹らとの共演、テレビのコマーシャルやドラマ出演などを通じて幅広い知名度を誇る才人だ。現在62歳。「円熟」という形容が似合う年ごろだが、本人は「音楽に関してはごく最近まで、わりと全てが謎だった」と打ち明ける。インタビューを通じて、古澤が近年探り当てた音楽の「真実」に迫った。【濱弘明】
わりと全てが「謎」だった
東京都交響楽団のソロ・コンサートマスターを1988~92年に務める一方、ピアノ四重奏のバンド「Typhoon」(タイフーン)ではジプシー音楽を積極的に取り上げ、葉加瀬とのデュオではポップスに手を伸ばした。テレビ東京の番組「Dの旋律」で競技ダンスとのコラボにも取り組んでいる。「古澤巖はいったい何がしたいのか?」。少々無礼な質問を、最初にぶつけてみた。
「はっきりしてますよ。今はワールドミュージックとかケルトとか、いきなり始められる。でも俺が子供の頃、ヴァイオリンを弾くための入り口はクラシックを習うしかなかった。レッスンでは『歌え』と言われるけど、歌う方法までは誰も教えてくれない。今までわりと全てが謎だった。でも最近、いい感じで解き明かしたものが二つある」
まず、その「二つ」を解説してもらおう。2020年からの新型コロナウイルス禍により、演奏会のキャンセルが相次いだ。もともと理詰めで探求する性分。この機に音楽を見つめ直した。
「俺は『宗次コレクション』から、かつてヴィオッティが使用した1718年製のストラディバリウスを貸与されている。モダンな楽器なら簡単に鳴るが、オールド楽器という“魔法のランプ”は、俺がこすってもうんともすんとも鳴らない。ごく最近まで、ランプから魔神が現れることはなかった」
オールド楽器は簡単に鳴らせる代物ではないらしい。それには原因があった。
「一つは楽器の持ち方が破綻をきたしていた。…
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