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「記録が十分に残っていなかった」―。静岡県熱海市伊豆山の土石流災害で、行政対応を検証してきた県の第三者委員会は、13日公表の最終報告書で、焦点となっていた2011年の手続きの是非を解明できなかった。一方で「行政対応は失敗」とする最終報告の指摘には、犠牲者遺族から「私たちの思っていた通りだ」と高く評価する声が上がった。【皆川真仁、深野麟之介】
崩落の起点となった盛り土があった土地の前所有者に対し、市は防災対策を実施するよう措置命令を出す方針を決めながら、なぜ見送ったのか。その判断の是非と経緯が最終報告でどこまで解明されるのか注目されていた。
だが、第三者委によると、この時期の県と市の公文書は断片的で、検証は道半ばだった。このため、最終報告書は「公文書管理のあり方を改善し、常に検証可能なものとすべきだ」と注文をつけた。
措置命令見送りの理由について、熱海市の金井慎一郎副市長は記者会見で「前所有者側が防災工事に乗り出す姿勢を見せ、一定の安全性が担保された」と従来の市の主張を繰り返した。ただ、最終報告は「(前所有者による)特段の防災工事は実施されていない」と指摘。第三者委の青島伸雄委員長も「危険な状態が回避されたとは思えない。措置命令を発出し、安全性がきちんと担保されるまで、盛り土に関心を向けるべきだった」と、市の対応を疑問視した。
県と市の連携について、最終報告は、盛り土の造成計画が市に届けられた07年春以降、「盛り土の崩壊という『最悪の事態』を想定し、県と市が早期に協力体制を築くべきだった」と不十分さを指摘した。難波喬司副知事は「県が権限を持つ法令での対応にこだわるなど、不十分な点はあった」と受け止めた。
大惨事の責任の一端が行政にあるとした最終報告書について、遺族と被災者でつくる「被害者の会」会長の瀬下雄史さん(54)は「非常に納得できる」ととらえる。一方で「納得しかねる」という市の姿勢に首をかしげ「措置命令見送りの際の市の公文書がすっぽり抜け落ちている」と不信感を隠さなかった。
熱海市長「納得しかねる」
最終報告書について熱海市の斉藤栄市長は、市の対応への批判が中心になっているとして「バランスを欠いている」「納得しかねる」と不満を述べた。
市役所で記者団の取材に応じた市長は「反省すべき点は真摯(しんし)に受け止めねばならない」といい、不備がある届け出を受理したり、盛り土の調査が不十分だったりしたことを挙げた。
一方で最終報告書で「行政対応は失敗だった」と非難された点について「(県の規制がかかる)森林法がなぜ機能しなかったのか。そこに行政の失敗がある」と主張し、県の対応にも問題があったとの認識を示した。
最終報告書と市議会調査特別委員会の調査を踏まえ、改めて市としての見解を示す。【長沢英次】
盛り土と土石流を巡る主な経緯
2006年 9月 神奈川県小田原市の不動産管理会社(前所有者)が、後に土石流の起点となる土地を取得
07年 3月 前所有者が熱海市に盛り土の造成計画を届け出。書面に複数の空欄があったのに市は4月に受理
08年 4月 造成工事が期限を迎えたが、無届けで土砂搬入が続く
09年 3月 土砂の搬入が本格化。その後、計画を超える量の盛り土造成を受け、市は前所有者に搬入中止を要請
12月 造成計画の変更届(1回目)を提出。発災後の県の調査で、虚偽の盛り土量を届け出た疑いが浮上
10年 3月 工期延長のため造成計画の変更届(2回目)を提出
11年 2月 前所有者が土地を現所有者に譲渡
6月 市は県と協議し、前所有者に盛り土の安全対策を求める措置命令の発出を決定。その後、前所有者が防災工事を行うと説明したため、発出を見送る
7月 市は造成計画の変更届(3回目)に必要な図面が添付されていないのに受理
21年 7月 3日 土石流が発生。災害関連死を含め27人が死亡、依然1人が行方不明
10月18日 県と市が盛り土関連の行政文書を公表
22年 3月17日 盛り土規制強化の県条例案を議会可決
3月28日 県と市の行政対応を検証する第三者委員会が中間報告を公表
5月12日 市議会百条委員会が、盛り土のあった土地の前・現所有者を証人尋問
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