講談師・神田京子さんの“2拠点生活” 金子みすゞの人生を作品に
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講談師の神田京子さん(45)は、2年前に東京から山口へ住まいを移した。そこで、「明るいほうへ」「わたしと小鳥とすずと」などの詩で知られる山口出身の童謡詩人・金子みすゞ(1903~30年)に出合い、その人生や作品を講談に仕立て、2021年度の文化庁芸術祭で優秀賞を受賞した。「私の救いにもなった前向きな世界を多くの人に届けたい」と話す京子さん。山口・東京の“2拠点”でのライフスタイルや、コロナ下の世の中が「明るいほうへ」向かってほしいとの思いを込めた新作講談について聞いた。【油井雅和】
ほとんど知人のいない山口へ
京子さんは詩人の夫、桑原滝弥さんと息子の3人家族。東京都内に住んでいた20年2月、「夫の知人がいるというだけで、友人もゆかりもない」という山口市へ転居した。その理由を「息子の幼稚園を都内で探すのが大変で、面倒くさくなってしまって。息子が幼稚園に入る頃には、どこか環境の良い地方に引っ越そうと決めていたんです」と話す。
山口であった詩の祭典にゲスト出演したことがあり、「文化の薫りがして雰囲気もよく、何か創作活動ができるなという予感もしていました。山口は中原中也、金子みすゞ、まど・みちお……と多くの詩人が出ていますし」とも語る。山口市から県内の空港への交通の便が良く、東京に飛行機で簡単に行けるのも魅力だった。
「山口での生活について、不安は全くなく、ワクワク感しかありませんでした。知り合いがほぼいないので、仕事がないのは当然と思っていたけれど、何とかなるだろうと」。その頃は、東京など全国各地での仕事が安定して入っており、東京に行った時には数日間滞在して寄席などにも出演するつもりだった。
京子さんは、「清水次郎長伝」「赤穂義士伝」などスタンダードな講談会を続ける一方、ジャズ音楽と「三文オペラ」、クラシック音楽と「カルメン」など他ジャンルとのコラボレーションも展開。講談の可能性を広げてきた。テレビやラジオなどでも活躍してきた。
移住の直後、コロナ禍が拡大
ところが……山口市に移った20年春、新型コロナウイルスの感染が拡大。仕事のキャンセルが相次ぎ、新しい仕事も入らなくなった。「その年は、ほとんど山口から出ず、どうしようかな、でも何とかなるかなと、貯金を取り崩しながら生活していました」
不安の中でのスタートになったが、山口市は住みやすい街だった。「県庁所在地なのに静かなんです。私も夫も自動車の免許は持っていないけれど、徒歩と自転車で行けるところで必要なものは全部そろうので、東京に住んでいるのと変わりありません。私は山国の岐阜出身で、身近に山が見えるのもホッとしました」
地方でゆっくり子育てを
地方に住みたい理由は他にもあった。「(11年の)東日本大震災の後に5、6年、被災者の方が暮らす仮設住宅などに公演で通わせていただき、価値観が変わりました。東京で感じたことを全国に発信することも大事だけれど、地方に住んでみて、そこから感じたことを発信できるやり方はないだろうかと、考えるようになったんです」
その中で自身のライフスタイルも見つめ直したという。「せわしない東京ではなかなかできなかったのですが、地方でゆっくりと子育てしながら、自分で決めた期間はギュッと仕事をするというメリハリをつけたいとも思うようになりました」
山口では近所に友人が増え、コロナ禍の中でも、地元テレビ局でのレギュラー出演が決まった。「私が仕事で東京などに行っている時は、夫だけでなく、周りのご家族や友達に子どもをお世話してもらって助けてもらっています。それで山口に戻ると、日中は子どもと一緒にいながら公演の準備をしています」
就活中に講談に出合い、入門
日大芸術学部の4年生だった1999年、アナウンサーを目指した就職活動などで悩んでいた時、たまたま入った寄席で二代目神田山陽(1909~2000年)の講談に出合った。
「心の中でもんもんとしていたものが、解き放たれた」と感じ、その場で入門を決意。山陽から「今日突然来たから」と、「京子」の名をもらった。ただ、入門は師匠の最晩年で、翌年に師匠は他界した。その後は、山陽門下の姉弟子、神田陽子に師事。兄弟子の神田松鯉(しょうり)、神田愛山らにも稽古(けいこ)をつけてもらった。
「前座、二ツ目時代は、着物を着た元気なお姉ちゃん講談師というふうに見られがちでした。私もそのキャラクターを演じないといけないと思い、つらかったこともありました」と振り返る。
14年に真打ち昇進。「技術の習得が遅いのは自分でも分かっていました。時間はかかったけれど、15年かけて真打ちになり、今、仕事で好きなことができるようになって、うれしいです」
コロナ禍の中、みすゞの詩に共感
金子みすゞのことを深く知るようになったきっかけは、山口への移住、そして…
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