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新型コロナウイルス感染症の流行は3年目に入った。政府は、社会経済活動の回復に軸足を移そうとしているが、今も暮らしの安心を脅かされている人がいる。
この間、弱い立場の人がより厳しい状況に追い込まれ、セーフティーネットが不十分であることが明らかになった。
政府は給付金や生活資金の貸し付けなど支援策を講じてきた。だが、一時的な下支えだけでは限界がある。今後は、貸付金の返済に苦労する人も出てくるだろう。
とりわけ苦しいのが、ひとり親家庭だ。「第6波」では、子どもにも感染が広がり、学校や保育所の学級閉鎖や休園が増えた。
支援団体「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」によると、子どもの世話で仕事を休まざるを得ず、さらに家計が厳しくなる事態が繰り返されている。
いまだに広がる「格差」
ロシアのウクライナ侵攻で加速した物価高が、苦境に追い打ちをかけている。「食料品、ガソリン代がどんどん値上げされ、食べていけるか心配だ」。切実な声が寄せられる。
障害がある人も苦境が続いている。就労の場である作業所は、イベントでのパンや菓子の販売、ホテルのクリーニング業務の下請けなどをしていたが、感染拡大によるイベント休止や宿泊客の減少で仕事が急減した。
需要は回復しつつあるものの、コロナ前の水準には戻っていない。当初は積立金を取り崩してしのいできたが、長期化により障害者が受け取る賃金や工賃も減ってきている。
こうした人たちを支える政府や自治体の支援が行き届かない中、その穴を埋めるように、感染拡大の当初から目の前の困った人に手を差し伸べてきたのが各地域の民間団体である。
大津市にあるNPO法人「こどもソーシャルワークセンター」もその一つだ。保護者が病気だったり、夜に働きに出ていたりして、寂しい思いをする子どもたちを放課後から夜まで受け入れている。ボランティアやスタッフが夕飯を一緒に食べ、銭湯に行き、家まで送る。
2020年2月に政府が唐突に一斉休校を打ち出したことを受け、それまで週2日だった活動を週5日に拡大した。年配のボランティアは、家で作った食事をセンターに運ぶなどして支えた。
理事長の幸重忠孝さんは「家庭がしんどい子どもにとっては、学校が生活を支える受け皿になってきた。休校になったら、誰が子どもの面倒をみるのかとの思いだった」と語る。
民間がこうした支援を続ける上で最大の課題は活動資金の確保だ。民間の調査では、NPOを支援する団体の8割近くが、経営悪化のケースを把握していた。
行政と民間の協働こそ
特に小規模NPOの経営が厳しいと指摘されている。コロナ禍が長引いて支援を必要とする人が増えているにもかかわらず、景気悪化で企業や個人の寄付が減少しているという。
政府は、民間の取り組みを自治体が後押しするための補助金を新設したが、十分に活用されているとは言いがたい。
行政の福祉部門や学校などとの連携不足も問題だ。民間の立場では、最も厳しい環境に置かれている人を把握することは難しい。支援を必要とする人を行政がNPOにつなぐようになれば、孤立する人が少なくなる。
官民で連携して、幅広い人を巻き込もうという動きもある。茨城県つくばみらい市はふるさと納税の返礼品のお米を、ひとり親家庭に回してもらう取り組みをした。寄付した人に、社会的な課題を知ってもらうきっかけになる。
NPOと公的機関が、それぞれの持ち味を生かして協力し合う関係こそ望ましい。
明治大公共政策大学院の長畑誠専任教授は「政府が、自分たちの仕事はここまでと勝手に線を引いて、後は民間に任せるようでは問題だ」と指摘する。
自民党政権は、公助よりも自助や共助を強調してきた。だが、社会的に不利な立場に置かれている個人にとって、できることには限界がある。
暮らしの安心を保障することは政治の責任だ。政府や自治体は民間団体と協働し、誰一人取り残さない仕組みを早急に作らなければならない。