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どうにも釈然としない。相手国のミサイル発射拠点などを破壊する「敵基地攻撃能力」について、自民党が「反撃能力」に改称するよう政府に提言した一件である。同じ武力行使を意味する言葉だが、あえて言い回しを変えるとは、裏にどんな政治的意図が隠れているのか。
「反撃能力」への改称提言は、政府の国家安全保障戦略などの改定に向けた動きだった。4月下旬、自民党の安全保障調査会がまとめた提言に盛りこまれ、岸田文雄首相に提出された。ロシアによるウクライナ侵攻など他国の脅威や安保環境の変化を挙げた上で、「弾道ミサイル攻撃を含むわが国への武力攻撃に対する反撃能力を保有し、これらの攻撃を抑止し、対処する」よう政府に求めた。
まず、おさらいしておきたい。従来使われてきた「敵基地攻撃能力」は、相手が武力攻撃に着手した段階で、先に相手を攻撃するという考え方である。政府は他に防衛手段がない場合に限り「自衛の範囲内」で行使できるとしている。だが、判断を誤れば、国際法違反の「先制攻撃」になりかねない。
さらに、提言では攻撃対象について「ミサイル基地に限定されるものではなく、指揮統制機能等も含む」としている。解釈次第では、対象が際限なく広がる可能性もある。政府は年末までに国家安全保障戦略など安保関連の3文書を改定する方針だが、仮に提言通りの攻撃能力を備えることになれば、憲法9条に基づく「専守防衛」から逸脱する恐れが指摘されている。
名と実、大きな隔たり 金田一秀穂さん
そこで、意見を聞いたのは、言語学者で杏林大名誉教授の金田一秀穂さん(69)である。「名称こそ抑制的な印象ですが、内容は安全保障の転換になりうるほど重大で、名と実には大きな隔たりがあります。その意味で、『詐欺』に近いのではないかと思います。何より尊重すべき憲法を平気で踏み越えて、なし崩し的に国の規範を変えようとしているように見えます」
くだんの安全保障調査会で会長を務める小野寺五典元防衛相は、憲法との整合性に…
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