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ウクライナ侵攻

ロシア軍がウクライナに侵攻。米欧や日本は対露制裁を決めるなど対立が先鋭化しています。

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「飢えているわけではないけど」 持ち直しルーブル、崩壊の不安

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マクドナルドはロシア事業からの撤退を表明した=モスクワで2022年5月16日、ロイター
マクドナルドはロシア事業からの撤退を表明した=モスクワで2022年5月16日、ロイター

 ウクライナ侵攻を続けるロシアに対し、米欧諸国や日本は経済制裁を積み重ねてきた。各国の「脱ロシア化」は、ロシア経済や国民の生活にどのような影響を与えているのだろうか。首都モスクワで探った。

 「飢えているわけではないし、物が無くなったわけでもない。ただ、いろんな品物の値段が上がってしまっているのはつらい」

 モスクワのスーパーマーケットで買い物をしていた機械技師のアレクサンドルさん(46)はそう言って、ため息をついた。ウクライナへの侵攻が始まった頃、ちょうど郊外にダーチャ(別荘)を建てていたが、節約のため作業の多くは業者に頼まずに自分で済ませたという。妻はダーチャの庭でジャガイモの栽培を始めた。

 ロシアではソ連崩壊後の経済混乱が続いた1990年代に多くの国民がダーチャの家庭菜園で野菜を育て、飢えをしのいだ。アレクサンドルさんは「経済状況が今後どうなるかが読めない。いきなり食料が無くなるかもしれない。本当に90年代を思い出すよ」と肩をすくめた。

政府規制で相場回復、インフレ高水準

 ウクライナへの侵攻後のロシアでは、日米欧の経済制裁を受け、通貨ルーブルが1ドル=70ルーブル台半ばから3月中旬には120ルーブルまで暴落。食料品や輸入品を中心に物価上昇(インフレ)が進んだ。品不足が予想された砂糖や穀物などの買い占めの動きも広がった。

 これに対し、プーチン政権は輸出による外貨収入の80%をルーブルに交換することを企業に義務づけるなど、外貨取引の規制を強化し、天然ガスの代金をルーブルで払うよう欧州諸国に要求。露中央銀行も政策金利を一時20%まで引き上げるなど通貨防衛策を次々と打ち出し、ルーブルの相場は60ルーブル台まで持ち直した。プーチン大統領は今月12日、「インフレ率は徐々に鈍化し、ルーブルの相場は全通貨の中で最も良い動きを見せている」と胸を張った。

 ただ、政府の規制で支えられたルーブル相場がいずれ崩れるとの不安は消えない。将来の不安を反映した物価高も弱まっているとはいえ続いており、インタファクス通信によると、露連邦統計局が13日に発表したインフレ率は年率17・83%で2002年1月以来の水準という。モスクワのスーパーの女性店員は「食料品の値段は高いまま。生活が苦しい年金生活者の来店は割引のある午前中に集中している。一度に買う量も減った」と明かす。中央銀も4月のリポートで「3月下旬から購買活動の低下が起きている」と指摘する。

 ウクライナでの軍事活動が長期化する中で、経済制裁の影響は物価以外の面にも表れ始めている。

 「オートマチック車は2台しか残っていない。必要な部品の供給が止まり、生産が止まったせいだ」。「ラーダ」ブランドで知られる露自動車最大手アフトバスの乗用車を販売するモスクワ市内のディーラーは「メーカーは次の出荷は年末と言っている。販売台数は新型コロナウイルスの流行前の4分の1まで落ちた」と話した。

届かぬ海外製品、操業停止拡大の恐れ

 ウクライナ侵攻後の経済制裁や物流網の乱れなどにより、ロシア国内の自動車工場の多くが部品を輸入できなくなり、操業停止を余儀なくされている。外資系メーカーが一時撤収する動きも続き、業界団体のまとめでは、ロシアの4月の新車販売台数は前年同月に比べ78・5%も減少した。

 制裁によるサプライチェーン(供給網)の問題に直面しているのは自動車業界だけではない。中央銀が4月に国内の約1万3000社に実施した調査では、3分の2の企業が輸入部品の調達問題に直面していると答えた。欧米メディアは制裁によるハイテク製品などの取引禁止がロシアの兵器生産に影響を与える可能性も指摘する。

 プーチン政権は国産の代替品の利用を呼びかけ、輸入品に頼ってきたロシアの製造業の構造を転換する「好機」と訴える。だが、高金利が続き、西側諸国からの投資も見込めない中、代替品生産のための資金調達が難しい状況が続く。今後、部品の在庫が無くなれば操業停止を余儀なくされる企業がさらに広がる恐れもある。世界銀行はロシアの今年の国内総生産(GDP)成長率をマイナス11・2%と予想し、「その後の2年間もほとんど回復は見込めない」と指摘する。【モスクワ前谷宏】

ロシア経済、やがては自給自足か

 ロシアは2014年のクリミア強制編入で米国や欧州から経済制裁を受けて以降、制裁への耐久力を高める政策を強化してきた。輸入品を減らし、国内生産品を増やす産業政策や、非常時に備えた外貨や金の備蓄などだ。またロシアには外国との貿易が少なかったソ連時代に起源を持つ企業も多く、「閉鎖環境」への耐性が他国よりも高いという指摘もある。

 だが、経済の悪化は、すでにデータに表れ始めている。ロシアなどの経済を分析するフィンランドの研究機関BOFITによると、ロシアの製造業では、輸入部品の供給不足などにより生産が激減。3月の自動車生産は前年比50%減となった。交換部品の不足などから航空貨物便の運航も前年比で約8割減少している。

 さらに通貨ルーブルの下落や供給不足で食品、電気製品などの価格が3割から5割上昇。BOFITのイイカ・コルホネン調査部長は「食料品の物価上昇は、収入の多くを食料品に費やす低所得者層を直撃する。また中間層は外国企業の撤退や取引減少の影響を受けやすく、今後、失業や転職による所得減に直面するだろう」と分析する。

 これまでロシア経済が制裁に対し持ちこたえられたのは、…

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