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第5回全国高校eスポーツ選手権

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eスポーツ選手と金 「ta1yo」が海外プロリーグ挑戦を語る

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海外最高峰のeスポーツリーグとして知られる「オーバーウォッチ・リーグ」で活躍し、現在はストリーマーとして活動する「ta1yo」ことヘンダーソン・ショーン・太陽さん=GANYMEDE提供 拡大
海外最高峰のeスポーツリーグとして知られる「オーバーウォッチ・リーグ」で活躍し、現在はストリーマーとして活動する「ta1yo」ことヘンダーソン・ショーン・太陽さん=GANYMEDE提供

 今や子どもたちの将来の夢として挙げられるeスポーツ選手。「ta1yo」ことヘンダーソン・ショーン・太陽さん(22)は、チーム対戦型シューティングゲーム「オーバーウォッチ」の海外リーグに日本選手で初めて挑戦した。どんな世界が広がっていたのか。

優勝賞金は約1億5000万円

 「厳しい業界。そういう認識でいいと思います。でも、お金の稼ぎ方は時代によって変わり、ゲームが強ければお金をもらえる時代になりました。大昔に野球選手が初めてお給料をもらったときも、遊びの延長で野球をやっている感じだったと思います。それが今、eスポーツに変わっているだけ。5年後、10年後は全然違うと思いますね」

 そう話すta1yoさんは、小学生時代は友達と人気ゲームをわいわい楽しむ程度。中学もサッカー部に入った。だが、けがを繰り返してベンチを温める日々。ゲームで心の隙間(すきま)を埋める中、スポーツに没頭しゲームから離れる友人が増えていった。「ひとりぼっちというか、(周囲との)距離を感じるようになりました」。次第に、学校からも足が遠のいた。

 希望となったのがゲームだった。プレーヤーの腕前が数値化され、ランキングが表示されるオンラインの世界で結果が出るようになると「自分も才能があるのかもしれない」と感じた。

 2016年に発売されたオーバーウォッチは、プレーヤーが特殊能力を持つ「ヒーロー」を操作し、6対6のチーム戦を行うシューティングゲーム。30種を超える個性豊かなヒーローや、連係プレーが醍醐味(だいごみ)で、占拠した拠点の数や、相手プレーヤーを倒すことで得られるポイントで競うなど、さまざまな対戦方法が設けられている。

 ta1yoさんはランキング上位を維持するようになると、国内のプロチームからスカウトされた。17年、当時高校2年生ながらプロの世界に飛び込むと、国内大会で優勝。日本代表として世界大会に出場するなど好成績を収めた。

 ところが、その頃は国内のeスポーツの盛り上がりは今イチだった。人気のゲームも次々に変わっていくため、大会数は年々減少。ゲームで生計を立てるために「海外でやってみよう」と決断した。

 20年、単身で米ジョージア州に渡ったが、「オーバーウォッチ・リーグ」の2部リーグでの選手生活は「ひどいものでした」。無給で大部屋に6、7人で住み込み。支給されるのは卵と牛乳代くらいで、朝食もまともに取れなかった。ひたすらパソコンと向き合い、寝るだけ。「とてつもなく寂しい」毎日だったが、「勝ちたい」との思いだけはなくさなかった。

 約7カ月で状況は一変した。1部チームとの練習で勝利を収めたからだ。「あのチーム、強いらしいぞ」とうわさが広がり、ついにサンフランシスコの強豪チームから声が掛かった。

 ルーキー選手でも大会の報酬とは別に手取り5万ドル、日本円にして約500万円の最低年俸が設定されており、家賃や食費、移動費まで全て支給。チームで約1億5000万円の優勝賞金を手にするなど、華々しい経験を重ねた。「自分の中では、やっとプロと思える存在になれた瞬間でした」と振り返る。

 チームとの契約は昨年、満了した。ta1yoさんは数年で選手から退いた形だが、「他の競技と比べて選手生命が短いので、引退後をしっかりと考えることが大事」と強調する。現在は慶応大に通いつつ、ユーチューブで動画投稿を行い、ファンの投げ銭や広告収入などで収益を得るストリーマーとして活動している。

 今の活動を「選手にも戻りやすいキャリア」と話す一方で、「(ストリーマーなどの)エンタメの方が稼げると考えてしまう人もいます」。競技レベルの低下につながる可能性があると指摘し、プロ選手の待遇向上やeスポーツ界の盛り上がりには「勝ちたい、強くなりたいという気持ちが欠かせません」と言い切る。

 ta1yoさんに自身の今後を尋ねると、「お金も好きですが、心の中にぽっかり穴が開いちゃって。やっぱ競い合いたいという気持ちがすごく大きい。また選手に、といつなってもおかしくないですね」と笑う。この一言に、プロとしての心持ちが詰まっていた。【森野俊】

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