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米主導の経済連携 中国排除だけでは動かぬ

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 民主主義などの価値観を共有する国同士が連携し、中国に依存しない経済圏の形成を目指す。バイデン米大統領が発足を表明した新たな経済連携「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」である。

 デジタル社会のルール作りや、半導体など重要物資の供給網構築、脱炭素の投資支援などが柱だ。

 日韓や東南アジアなどの13カ国が参加した。日米豪印4カ国の枠組み「クアッド」とあわせ、重層的な構えで中国に向き合う。

 トランプ前政権時代に環太平洋パートナーシップ協定(TPP)から離脱した米国が、再びアジア経済への関与を深めようとする姿勢は評価したい。

 ただ、IPEFは関税引き下げなど包括的なルールを定める貿易協定とは異なる。市場開放などの利点は少なく、経済の底上げにつながるかは分からない。

 分野を限定して参加できる緩やかな連携で、参加国がどのような役割を担うかも不明確だ。

 米国では、雇用に悪影響を与えるとの懸念から市場開放への反発が強く、貿易協定は議論しにくい。中国がTPP加盟を申請するなど存在感を高める中、苦肉の策として打ち出したのが実情だ。

 だが、アジアの経済秩序作りを主導しようとするのなら、バイデン政権には利益を分かち合う姿勢が求められる。新興国企業が日米の供給網に参入しやすい貿易や投資の環境整備が欠かせない。

 安全保障面から経済の強靱(きょうじん)性を高める必要があるのは確かだ。新型コロナウイルス禍やウクライナ危機で重要物資を特定の国に依存するリスクが顕在化した。

 とはいえ、「排除の論理」が前面に出るようでは、経済連携は広がりを欠く。IPEFへの参加で東南アジア諸国連合(ASEAN)の足並みがそろわなかったのは、経済面で関係が深い中国に配慮したためだろう。

 自由で公正なルール作りを進めるうえで望ましいのは米国のTPP復帰だが、当面は期待薄だ。そうした状況では、新たな枠組みに実効性を持たせることから始めるしかない。

 日米は脱炭素への支援といった実利を通じて連携のメリットを示し、IPEFの基盤を固めなければならない。

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