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ポスト「民主主義」の世界

自由や人権を重んじる民主主義が行き詰まっていると指摘されています。世界で起きていることを検証し、再生への処方箋を探ります。

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ポーランドで進む政治による司法支配 政権の意に沿わぬ判事排除

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ポーランド南部クラクフの裁判所前に立つバルデマル・ジュレク判事=2022年1月26日午後4時59分、三木幸治撮影
ポーランド南部クラクフの裁判所前に立つバルデマル・ジュレク判事=2022年1月26日午後4時59分、三木幸治撮影

 「司法が政治に支配されてしまった」。ポーランドの古都クラクフのカフェで、地元地裁のバルデマル・ジュレク判事(52)が天を仰いだ。

 判事の身ながら政権から「最大の敵」と目されているジュレク氏に対して、現在16件の懲戒手続きが進められている。「政権が進める司法改革に公然と反対した」「自国の司法改革のあり方について欧州司法裁判所に意見を求めた」などが懲戒理由に当たる――というのが政権の言い分。ジュレク氏は25人の弁護士を雇い、訴訟対策に追われる。

 ジュレク氏を窮地に追い込んだポーランドの「司法改革」は2015年に始まった。単独政権を樹立した右派政党「法と正義」(PiS)が「エリート裁判官が牛耳り、政権の新政策を潰すなど、時に国家の利益に反する判断を示す裁判所を変える」との方針を打ち出したためだ。

 PiSはこの7年間で徐々に司法の形を変えてきた。国会の過半数の承認で選出される憲法裁判所の判事を「数の力」で「政権寄り」ばかりにした。また、裁判官を指名する機関「全国裁判所評議会」(KRS)の仕組みを変更し、最高裁判事の選出に政権が強い影響力を行使できるようにした。さらに、裁判官の懲戒手続きを強化するため「懲戒院」も設置。判決内容や反政権的な行動も懲戒対象とした。政権の意に沿わない判事は排除されるようになったのだ。

 ジュレク氏は17年までKRSの幹部を務めていた。「政権は民主国家に必要な司法の独立を侵害している」。そう唱えて16年に首都ワルシャワで大規模な抗議集会を開くと、政権はジュレク氏を敵と見なした。

 その年から汚職容疑で捜査を受け、妊娠中の妻とともに執拗(しつよう)に当局に呼び出された。だが、1年4カ月に及ぶ捜査でも違反は見つからなかった。18年からは脅迫されるようになった。街で携帯電話が鳴り、男がすごむ。「銃の照準をお前の頭に合わせている」。インターネット上ではジュレク氏に関する偽情報が飛び交った。「元共産党員でアルコール依存症だ」「離婚した妻に子供の養育費を払っていない」。19年、地元メディアは中傷を投稿していた女性が「副法相に依頼された」と明かしたと報道。副法相は辞任に追い込まれた。

 共産主義国だったポーランドが民主化したのは1989年。ジュレク氏は19歳だった。多くの友人が豊かな暮らしを求めて民間企業に就職するなか、「民主主義の礎となる」と、判事の道を選んだ。それから33年。ジュレク氏は嘆息する。「民主化したポーランドは第二の日本を目指していたはずだった。だが、今はロシアやベラルーシのような強権国家になりつつある」

 立法、行政、司法の三権分立は民主主義の土台だが、東欧や中東では今、政治による司法の弱体化の動きが強まっている。状況を追った。【クラクフ(ポーランド南部)で三木幸治】

二つの司法が並立

 「ポーランドには今、二つの司法が並立しているのです」。裁判官約1万人のうち、3割以上が所属する団体「ユスティチア」のクリスチャン・マルキェビチ代表が苦々しい顔をした。裁判官の選出方法を巡り、政権寄りの憲法裁判所と、ポーランドが加盟する欧州連合(EU)の「欧州司法裁判所」の「見解が完全に食い違っている」からだ。

 右派与党「法と正義」(PiS)が進める「司法改革」で…

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