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リハビリは「頭でイメージ」 脳卒中でまひした指が動いた /3

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脳卒中後に左手がまひした後藤博さん。BMIリハビリがきっかけで、ブロックが持てるようになった=東京都品川区で3月、内藤絵美撮影
脳卒中後に左手がまひした後藤博さん。BMIリハビリがきっかけで、ブロックが持てるようになった=東京都品川区で3月、内藤絵美撮影

 「手を開こうと思うほど、ぐーっと握ってしまう」。脳卒中を発症した男性の左手は後遺症でまひし、当初はこわばって動かなかった。ところが、今では指を動かせお手玉が握れる。その腕を振り上げて手を開くと、指先から離れたお手玉は宙を舞った。それを可能にしたのは、脳波を読み取り人工知能(AI)を活用するリハビリだった。【岡田英】

連載「拡張する脳」第1部(全9回)は以下のラインアップでお届けします。
第1回 ALS患者「愛していると伝えたい」
第2回 脳波で文字入力 阪大が治験計画
第3回 頭でイメージ まひの指動いた
第4回 開発競争「バチバチの戦い」
第5回 「心」は診断できるか
第6回 光よ再び 人工網膜の可能性
第7回 肉体の限界を超える
第8回 負の歴史 直視を
第9回 舩後参院議員に聞く

◇脳波を読み取り、AIで解析

 2010年、第一生命保険に勤めていた後藤博さん(60)は脳卒中に襲われた。48歳の時だった。一命は取り留めたが、左手の感覚がなくなり「まるで違う物体がくっついているようだった」。医師から「腕1本失ったと思って」と告げられ、目の前が真っ暗になった。

 病院を転々としてリハビリに取り組んだが、一向に回復しない。失望に暮れる中、職場の同僚らから慶応大による最先端のリハビリの臨床研究について教えてもらった。わらにもすがる思いで、主治医に慶大への紹介状を書いてもらった。

 臨床研究に参加してみると驚いた。頭にはヘッドホンのような脳波計、まひした左腕には電動装具を装着し、手のひらを開くイメージをする。脳波計には電極が付いており、運動をつかさどる脳の「運動野」と呼ばれる部分の脳波を読み取る。それをAIが解析。手を開いた時に出る脳波だとAIが識別すると、まひにより握った状態の手を開かせてくれるように装具が動く。

 後藤さんは最初、手を開くイメージをしても「うまくできなかった」と振り返る。自分の脳波を同時に見ながら試行錯誤を重ねるうちに、徐々に装具を動かして手を開けられるようになり「これでいいんだ」というコツをつかんでいった。

 こうした約2週間のリハビリを経て、脳波計や装具を装着しなくても、指などの筋肉に少し動きが出るようになった。通常のリハビリも重ね、軽い袋を持てたり、長袖の服に袖を通せたりして、日常生活を一人で送れる程度にまで回復。現在は第一生命経済研究所の研究員として働きつつ、脳卒中のリハビリのあり方を考える患者団体も設立した。

 「自分に残された能力を最大限生かしたいと思えるようになったのは、最先端の技術のおかげ。日常生活のいろいろな所でプラスをもたらしてくれた」。後藤さんはそう語った。

脳の反応を「見える化」、記者も体験

 脳卒中による重度のまひは治らないと言われてきた。少しでも改善できればと、脳波計や人工知能(AI)などを組み合わせたリハビリを開発したのは、慶応大の牛場潤一(うしば・じゅんいち)教授(神経科学)らのグループだ。

 脳と機械をつないで情報をやり取りする「ブレーン・マシン・インターフェース(BMI)」という先端技術を応用。脳の状態を自分で観察し、正常に近い状態に意識的に近づけていくことを試みる「ニューロフィードバック」という手法を取り入れた。

 「脳の反応…

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