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私には、もう一度、指を差し入れたい場所がある。しかしその願いはかなわない。それはもう、この世には存在していないからだ。今でもあの色のコントラストを思い浮かべると耳がほてり、体全体が鼓動を打ち始める。
私が見えていたころの大切な色彩の記憶の一つである。小豆のアイスバーを左右に割ったような色と形をしたあの部分。それが同じ力の割合で接し合っている、黒くて弾力を持った場所。そう、阪急電鉄の今はなき2100系のドアの割れ目なのだ。
小豆色をした左右の扉が接しているゴムの部分。特にこれが忘れられまへん。他の車両とはひと味違う。直接ドアとゴムがついているような感じで、黒のような灰色のような色合いをしている。左右のドアの接点は、全く隙間(すきま)などないように見えるが、子どもでも、指先を適切なポイントに当て、ドリルのようにクリクリ回せば、挿入できちゃったのだ。一見、強情な硬さを思わせるが、その実ソフトで、指を入れてしまうと、ちょ…
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