連載

社説

社説は日々、論説委員が議論を交わして練り上げます。出来事のふり返りにも活用してください。

連載一覧

社説

処理水の放出計画了承 説明尽くす姿勢見えない

  • ブックマーク
  • 保存
  • メール
  • 印刷

 東京電力福島第1原発でたまり続ける処理水の海洋放出計画を、原子力規制委員会が了承した。

 正式に認可されれば、来春にも予定される放出に向け工事が本格化する。しかし、政府や東電には、地元や国内外に対して説明を尽くそうという姿勢が見えない。

 これまで「関係者の理解なしに海洋放出は行わない」と約束してきた。にもかかわらず、漁業関係者らの反対を押し切る形で計画が進められている。これで理解を得ることは難しい。

 東電は、事故を起こした原子炉建屋で汚染された水からトリチウム以外のほとんどの放射性物質を除去し、敷地内で保管している。設置されているタンクが、来秋までには満杯になるという。

 政府は昨年4月、廃炉作業に支障をきたさないように、タンク内の水を再処理したうえで大幅に薄め、海へ放出する方針を決めた。

 東電は、海底トンネルを通して沖合1キロから放出する計画だ。沿岸漁業や観光への影響を心配する地元の声に配慮したという。

 規制委は、計画に基づいて放出された場合、人体や海産物への放射線の影響は非常に小さく、安全性に問題はないと判断した。国際原子力機関(IAEA)も、同じ趣旨の報告書を公表している。

 放出には、福島県と地元の双葉町、大熊町の事前了解が必要だ。事故からようやく立ち直りつつある漁業関係者らは、風評被害を強く懸念している。

 政府は300億円の基金を新設し、風評で海産物の価格が下がった場合に買い取ったり、販路の拡大を支援したりする方針を示している。

 被害対策を講じるだけでは、関係者の不安は解消されまい。風評そのものが生じないように努めることが欠かせない。

 何よりも重要なのは、正確な情報の発信に力を入れることだ。

 復興庁が今年1月に実施した調査によると、処理水がどのように放出されるか知っている国民は4割程度にとどまった。

 規制委は、正式認可を前に一般から意見を公募している。国は真摯(しんし)に耳を傾け、スケジュールありきで進めるのでなく、地元にも国民にも丁寧な説明をしなければならない。

あわせて読みたい

マイページでフォローする

この記事の特集・連載
すべて見る

ニュース特集