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米国の小学校乱射事件 いつまで悲劇が続くのか

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 米国の宿弊がまたも惨劇をもたらした。

 南部テキサス州の小学校で、教室に立てこもった18歳の男が銃を乱射し、児童や教員ら20人以上を殺害した。

 事前にソーシャルメディアで襲撃を予告していたという。国境警備隊に撃たれて死亡し、現場からは殺傷力の高い軍用の半自動小銃が見つかった。

 ダンス好きの男の子やバスケットボールに熱中する女の子らの将来が瞬時に奪われ、児童を守ろうとした女性教師が犠牲となった。

 10年前には26人が殺害される小学校乱射事件があった。なぜ悲劇は繰り返されるのか。

 事件が起きるたびに銃規制強化を求める声が上がるが、遅々として進んでいない。背景には、米国社会の根深い対立がある。

 合衆国憲法は市民に自衛のための武装を認めている。規制賛成派は、そうであっても戦場で使われるような銃は護身の範囲を超えており、制限すべきだと主張する。

 規制反対派は、銃そのものは「悪」ではないと反論する。凶悪な犯罪者から身を守るための手段であり、種類によって制限を加えるべきではないという立場だ。

 問題は、対立のはざまで政治が身動きできないでいることだ。

 規制を支持する民主党は、銃購入者の身元調査を拡大し、厳格化する法案の可決を目指すが、見通しは立たない。

 規制に反対する共和党が、再発防止の最善策は教職員に銃を持たせ、訓練を実施することだと主張し、妥協を拒んでいるからだ。

 そもそも、大量殺傷を可能にする武器を10代の若者が合法的かつ容易に入手できることが、尋常ではない。その規制なしには悲劇が繰り返されるだけではないか。

 衝撃は世界に広がっている。欧州諸国の政府首脳らは「ひどい話だ」「ぞっとする」と驚きの声をあげた。ロシアや中国は米社会の深まる分断を民主主義の衰退の表れと指摘している。

 米国では人口を上回る4億丁の銃が流通する。銃問題は、「米国の常識」が世界には非常識に映る典型的な事例である。

 人権尊重をいくら叫んでも、足元の人権侵害に無策のままでは、国際社会の信頼は得られまい。

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