頭の中をスキャン うつ病を「脳状態の異常」と捉える試み /5
- ツイート
- みんなのツイートを見る
- シェア
- ブックマーク
- 保存
- メール
- リンク
- 印刷

脳と機械をつないで連動させる「ブレーン・マシン・インターフェース」(BMI)が、精神医療の分野で新たな道を切り開こうとしている。脳科学者らが開発した「うつ病の診断補助システム」は、脳内の撮影画像の分析により「心の病」を「脳の状態の異常」として捉えることを目指している。問診が中心だったこれまでの診断に、より客観的なデータをもたらせるのか。【松本光樹】
連載「拡張する脳」第1部(全9回)は以下のラインアップでお届けします。
第1回 ALS患者「愛していると伝えたい」
第2回 脳波で文字入力 阪大が治験計画
第3回 頭でイメージ まひの指動いた
第4回 開発競争「バチバチの戦い」
第5回 「心」は診断できるか
第6回 光よ再び 人工網膜の可能性
第7回 肉体の限界を超える
第8回 負の歴史 直視を
第9回 舩後参院議員に聞く
脳の「配線図」を読み取る
ベッドに横たわった患者の上半身が、ドーナツ形をしたfMRI(機能的磁気共鳴画像化装置)の中にすっぽり覆われるように入っていく。fMRIは、脳内を撮影して血流の変化を即座に画像で捉えることができる。「ウィーン、ガシャッ」。装置が稼働し「キーン」と甲高い大きな音が鳴り響いた。別室のモニターには、患者の頭部の断面を撮影した画像が次々と映し出されていった。
画像から、脳のどの部分が活発に活動しているのかが分かるという。脳科学の第一人者、川人(かわと)光男さんらは脳を379の領域に分け、領域同士を結ぶ「回路」の結びつきの強さを網羅的に調べた。
静かな状態で、健康な人とうつ病患者計数千人以上の脳画像をこの装置で撮影。人工知能(AI)を使って分析すると、健康な人とうつ病患者では、特定の回路で結びつきの強さが異なっていた。「fMRIでは、個人特有の脳の『配線図』が読み取れる。それを私たちが見いだしたうつ病の特徴と照らし合わせることで、うつ病の度合いを数値化できる」。川人さんはそう説明する。
この違いを目印に、うつ病の診断を補助するシステムを開発。川人さんらが2017年に設立したベンチャー企業「XNef」(エックスネフ、京都府精華町)は近く、医療機器などの審査実務を担う「医薬品医療機器総合機構」に、国の承認を得るための審査を申請する。
川人さんらは今回のシステムを発展させて、うつ病のタイプ別の診断が補助できないか研究を続けている。今年3月には、塩野義製薬などと臨床研究を始めると発表した。治療薬はうつ病のタイプによって効く患者と効かない患者がいるので、このシステムを使ったタイプ別の診断で適切な処方につなげたいという。
客観的な診断目指す
厚生労働省によると、うつ病患者は増加傾向で17年には95万7000人と推計されている。診察では主に、米国の精神医学会が作成した指針に沿って問診するなどして診断するが、別の精神疾患でもうつ病と似た症状を示すことがある。米国の精神医学専門誌に掲載された13年の報告によると、複数の医師が、あるうつ病患者を診て診断結果が一致する割合は、他の精神疾患を診た時より低い傾向がある。
川人さんは「うつ病と診断されて『とりあえず投薬』となったが、実際はその薬が合わない精神疾患を患っており症状が悪化した…
この記事は有料記事です。
残り1156文字(全文2488文字)