キクにトマトが接ぎ木できる!? 植物が持つ再生能力の不思議

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セイヨウタンポポの根を切断し、およそ1カ月で葉や茎が再生した様子=理化学研究所環境資源科学研究センターの岩瀬哲・上級研究員提供
セイヨウタンポポの根を切断し、およそ1カ月で葉や茎が再生した様子=理化学研究所環境資源科学研究センターの岩瀬哲・上級研究員提供

 大抵の動物は手足などの器官を失うと再生できないが、一部の植物は、枝や根から体全体を再生することができる。近年の研究で、その驚異の再生能力の秘密がわかってきた。これまで不可能と考えられてきた技術への試行錯誤も始まっている。

新たな品種開発の可能性

 植物の再生能力を使った技術として、古くから知られているのが接ぎ木だ。土台となる「台木」に、増やしたい「穂木」を継ぎ足す。

 例えば、病気や塩害土壌に強い株を台木にして、味や収量がいい株を穂木にすると、両方の長所をいいとこ取りした株ができる。日本の春の代名詞ともいえるソメイヨシノや、欧州のワイン用ブドウは多くが接ぎ木だ。新しい品種を開発する期間の短縮やコストの削減につながり、野菜の接ぎ木苗も数多く出回るようになった。

 この接ぎ木で、常識を覆す発見があった。接ぎ合わせできるのはあくまで近縁の種に限られると考えられてきたが、名古屋大などの研究チームは、ナス科タバコ属の植物では「科」の壁を越えて接ぎ合わせられることを見つけた。この成果は2020年8月に米科学誌サイエンスに掲載された。

 チームの野田口理孝・名大准教授(植物科学)によると、ベンサミアナタバコなど7種のタバコ属の植物を穂木にすると、42科84種のうち38科73種の台木に接ぎ木できた。

 接着部分では、細胞壁の形成に関与することが示唆される酵素「セルラーゼ」が多くなっていた。この酵素が多いと、細胞壁の主要な成分であるセルロースを溶かして癒合しやすくしている可能性が明らかになった。タバコ属以外の植物同士を接ぎ木しても、この酵素が多く出るようにすると、成功率が上がったという…

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