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「値上げ許容度」発言 問われる日銀の物価認識

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 国民生活の実相に対する日銀の認識が問われかねない。

 「日本の家計の値上げ許容度は高まっている」と講演で述べた黒田東彦総裁が批判を受け、発言の撤回に追い込まれた。

 賃金が上がらない中で生活必需品の相次ぐ値上げに苦しむ国民の視点を欠いている。

 黒田氏は「家計が値上げを受け入れている間に良好な経済環境を維持し、来年度以降の賃金の本格上昇につなげていけるかがポイント」と語った。国民に我慢を強いるかのような言いぶりだ。

 新型コロナウイルス禍で外出などが制限され、家計の貯蓄は増えた。その結果、値上げを受け入れる余地が生まれた可能性があるとの見立ても披露した。

 富裕層を除けば、日々の生活費のやりくりで余裕を感じている国民がどれほどいるだろうか。一人一人の生活実態を軽視したかのような分析と言わざるを得ない。

 一つの調査結果を、自らの主張に沿う形で恣意(しい)的に利用したように見える点も問題だ。

 黒田氏は、なじみの店で商品が値上げされても「同じ店で商品を買う」と過半数が答えたというアンケート調査を紹介した。

 同じ調査で買う量を減らし、頻度を落とすなどの節約志向も浮かび上がったが、この点には触れなかった。

 最近はカップ麺などが値上げされ、秋までにパンやビールなども続く見通しだ。物価高がどこまで家計に影響するかはまだ判断できる状況にない。

 日銀は大規模な金融緩和を続ける姿勢を堅持している。物価上昇率は4月に目標とする2%に達したが、背景にある国際的な資源価格の高騰が「経済にマイナスに作用する」などと判断した。

 一方、黒田氏は今回の発言の中で、値上げの動きを肯定的にとらえ、経済の好転につながるかのような楽観的な見方を示した。ちぐはぐ感は否めない。

 日銀の緩和策は円安を招き、物価高に拍車を掛けているとの批判がある。

 今回のように国民の実感から離れた発言は、金融政策への信頼を損ないかねない。求められるのは現状を綿密に分析し、丁寧に説明することだ。

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