開示されぬ心神喪失者の事件情報 「事実がないものに」遺族の苦悩
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心神喪失者の行為は罰しない――。この刑法の規定により全国で年間400人程度の容疑者が不起訴となっている。さらに、殺人などの重大事件では「元容疑者」は入院して社会復帰を目指すことが法律で認められている。では、入院した加害者情報は被害者や遺族にどれだけもたらされているのか。現場を取材すると、「病気だから」を理由に情報にアクセスできず、加害者の状況や事件の動機も分からぬまま、苦悶(くもん)し続ける人がいる。
遺族「一人の人間が殺されたのに…」
東京都内に住む女性は2019年2月、夫の大森信也さん(当時46歳)を殺人事件で亡くした。警視庁に現行犯逮捕された20代の男性は、大森さんを刃物で刺して殺害したことを認めたものの、東京地検は精神鑑定の結果、「刑事責任は問えない」と判断して不起訴とした。男性は心神喪失者等医療観察法に基づき、裁判所の審判を経て指定医療機関に入院している。
入院が継続しているか否かは同法に基づき国に開示請求できる。女性は半年に1回、男性の「その後」を知るため、継続して男性に関与する保護観察所に書面を取りに行く。ただ、病名や治療方法、男性が事件とどう向き合っているのかなど知りたい情報は記載されていない。「一人の人間が殺された事実を、ないことにされているような気持ちになる」。女性は自身のスマートフォンに残る大森さんの写真を見ながらつぶやく。
児童養護に心血注いだ夫
女性が大森さんと出会ったのは1995年。女性が勤務していた児童養護施設に大森さんが新人として就職してきた。施設では何らかの理由で親と暮らせない少年少女が暮らし、真剣に子どもと向き合う大森さんに女性はひかれた。99年に結婚。2人の子に恵まれた。
大森さんは生前、…
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