「喉がロックされている」 男子大学生のカミングアウトに周囲は

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吃音を打ち明けた大学の同級生とゼミで話し合う石井椋さん(左)=京都市北区の佛教大で2022年5月19日午後3時35分、遠藤大志撮影
吃音を打ち明けた大学の同級生とゼミで話し合う石井椋さん(左)=京都市北区の佛教大で2022年5月19日午後3時35分、遠藤大志撮影

 もう、隠し通せない――。この春、ある男子大学生がゼミで秘密を打ち明けた。自分の名前もうまく言えないのが恥ずかしくて、できれば黙っておきたかった。それでもカミングアウトしたのは人生を切り開きたかったからだ。【東京社会部/遠藤大志】

 佛教大紫野キャンパス(京都市北区)のこぢんまりとした教室で今年5月、ソーシャルワーカー(社会福祉士)を育成するためのゼミが開かれていた。社会福祉学部4年生の石井椋さん(21)=大阪府吹田市=が10人ほどの学生を前に喉を震わせながら打ち明けた。

 「自分には言葉の出にくい吃音(きつおん)症というものがあります」。そして、自身の吃音(どもること)について説明するA4判のプリントを配り、同級生たちに必要な配慮を求めた。

 <いつも通り接してください! 何かお願いするかもしれません その時は助けていただけるとありがたいです>

 長い間、吃音を隠していたため、自分の弱みをさらけ出し、周囲を頼ることに葛藤もあった。いつもよりも言葉が詰まり、冷や汗も流れた。でも、話していくうちに「もう隠さなくていいんだ」という解放感を覚えた。

 「そんなに気にならないよ」。授業後、他の学生からそう励まされた。

自分の名前が言いにくい

 吃音は日本で人口の約1%の人が症状を抱えるとされている。比較的珍しくない障害にもかかわらず、その存在が認知されにくいのは、話し方を工夫したり、コミュニケーションを避けたりして、症状を隠す人が少なくないからだ。特に大学時代は、ゼミ発表やアルバイト、就活の面接などがあり、吃音者にとって困難の連続だ。石井さんもそんな悩みを持つ一人だ。

 吃音には連発(わわわたしは)、伸発(わ―――たしは)、難発(………わたしは)の症状がある。石井さんには幼稚園のころから同じ音を繰り返す連発性の症状が出ている。

 幼いころはさほど気にしなかったが、思春期を経て自我が確立してくると、状況は変わった。中学に入り、クラスや部活での自己紹介で言葉が詰まるたびに「なんで自分だけなんだろう」と違和感を抱き始めた。

 高校に進学すると、症状はさらに悪化し、伸発、難発の症状も出始めた。同級生からも「何や、そのしゃべりかた」と笑われることもあった。それでも、必死に隠し続けた。理由は「恥ずかしかったから」だ。ただ、周囲に気づかれなくても、言いたいことが言えないもどかしさは心の奥底にたまっていった。

 「喉が強くロック(施錠)されているような状態ですね」。石井さんは、どもるときの身体感覚をこう例える。現在の症状は主に難発と伸発で、特に「あ」「い」「う」「え」「お」の母音からしゃべり始めるのが苦手だ。最も困っているのは、自分の名前がスムーズに言えないこと。名字の「石井」は「い」で始まるからだ。このため、自己紹介のたびに、逃げ出したいほどの恐怖に駆られる。

 言葉が詰まるときは、周囲に吃音を気づかれないよう「えっと……」などと考えているふりをしたり、身ぶり手ぶりを交えたりしながら、緊張が緩んだすきに絞り出すようにして声を出す。苦手な言葉を避けながら言い換えを多用するために、頭の中はフル回転だ。数分の会話でもどっと疲労感が押し寄せる。

ゼミでの自己紹介はカードを選んで

 そんな日々に限界を感じたのは、大学3年の7月だった。単位…

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