FRB、吹き飛んだ楽観論 「0.75%利上げ」苦渋のサプライズ
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米国の連邦準備制度理事会(FRB)が、異例の大幅利上げに踏み切った。欧州中央銀行(ECB)も来月利上げする方針だ。世界的にインフレ退治が本格化しているが、景気を冷え込ませるリスクもはらんでおり各国の金融当局は難しいかじ取りを迫られている。
景気冷却リスク、改めて浮き彫り
「インフレはこの1年で明らかに進んでおり、さらに驚きがあるかもしれない。我々は変化に機敏に対応する必要がある」。FRBのパウエル議長は15日の記者会見で、0・75%という大幅利上げを決めた理由をそう説明した。
FRBは、5月会合で従来の2倍の上げ幅となる0・5%の利上げを決定、6、7月会合でも同じ上げ幅を維持する予定だった。
そんなシナリオを狂わせたのが、10日発表の5月の消費者物価指数(CPI)だ。前年同月比8・6%という上昇率は市場予想を大幅に上回り、「横ばいか低下の兆候が見られると期待していた」(パウエル氏)という楽観論は吹き飛んだ。市場とのコミュニケーションを重視し、金融政策でサプライズを起こさないよう配慮してきたパウエル氏だが、会合直前で方針変更を余儀なくされた。
FRBが15日公表した最新の経済見通しでは、インフレ対策を最優先する姿勢がより鮮明となった。
2022年末の政策金利見通しは3・4%で、18年12月までの前回の利上げ局面のピーク(2・25~2・5%)をはるかに上回る。23年末の政策金利見通しも3・8%とした。
インフレについては、4月に6・3%だった個人消費支出(PCE)物価指数の上昇率が22年末に5・2%、23年末には2・6%に下がるとの見通しを示した。
一方、実質経済成長率の見通しは22年末に1・7%と、3月時点の見通し(2・8%)から大きく引き下げた。急ピッチの金融引き締めでインフレを抑え込む代わりに、経済成長が鈍化するのを容認した形だ。
インフレ退治に本腰を入れているのは、FRBだけではない。ECBは7月会合で11年ぶりとなる利上げに踏み切る方針。0・25%利上げしたうえで、9月にも追加利上げする方針を示している。
16日には、スイス国立銀行(中央銀行)が約15年ぶりの利上げを決定。英中央銀行イングランド銀行も5会合連続で利上げを決めた。
だが、市場では急激な金融引き締めが景気後退を招くことへの懸念が強まっている。ニューヨーク株式市場では、FRBの大幅利上げの観測が強まった13日、ダウ工業株30種平均は一時1000ドル超下落した。パウエル氏は15日の会見で、0・75%という上げ幅が「一般的になるとは考えていない」と市場の不安解消に追われた。
欧州市場でも、ECBが利上げを表明して以降、イタリアなど南欧諸国の国債が売られ、価格が急落(金利は急上昇)。ECBは15日に臨時の理事会を開き、新型コロナウイルス対策で始めた緊急資産購入制度を使い南欧諸国の国債を買い支えることを決めた。南欧諸国はコロナ禍からの景気回復が遅れており、利上げで経済がさらに落ち込むとの警戒感が高まったためだ。
ECBが利上げに踏み切るのは、ユーロ圏(19カ国)の物価上昇率が8%超と歴史的な水準となっているためだが、インフレ抑制と景気維持の両立の難しさが改めて浮き彫りとなった。
日本でも物価高が進んでいるが、日銀は大規模金融緩和を続ける方針。欧米とは対照的なその政策が金融市場を揺らしている。
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