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テレビアニメになり、ドラマ化もされた手塚治虫(てづか・おさむ)さんの「陽(ひ)だまりの樹(き)」。主人公の蘭方医(らんぽうい)、手塚良庵(りょうあん)は幕末に実在した手塚さんの曽祖父である。大阪の適塾で福沢諭吉(ふくざわ・ゆきち)とともに学び、江戸初の種痘所の設立にも協力した▲1858(安政5)年の旧暦5月7日に開明派の幕閣、川路聖謨(かわじ・としあきら)の屋敷内に設立された「お玉ケ池種痘所」である。新暦ではきょう17日に当たる。東京都千代田区の跡地近くに記念碑が建つ▲後に幕府直轄の施設になり、西洋医学所と改名された。東京大学医学部の前身で5月7日は医学部の創立記念日とされる。大阪大学の前身である適塾は江戸より先に種痘所を開設した。感染症対策が日本の高等教育の源流だったわけだ▲コロナ禍を契機に米疾病対策センター(CDC)をモデルにした「日本版CDC」の設立が決まった。国立国際医療研究センターと統合される国立感染症研究所の起源は北里柴三郎(きたさと・しばさぶろう)が福沢の支援で設立した伝染病研究所である▲米CDCは1946年にマラリア対策のため、アトランタの小さなビルに設立された。当初の人員は400人足らずだったが、今では1万人を超える職員を抱え、世界の感染症対策をリードする存在である▲簡単には追いつけまい。コロナ禍では欧米とのワクチン開発技術の格差を見せつけられた。だが、日本にも感染症との長い闘いで優秀な科学者を輩出してきた歴史がある。新たな感染症の脅威に対応できる体制を整えることは重要な「人間の安全保障」である。