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東京電力福島第1原発事故で被災した福島県浪江町で18日、喫茶店「コーヒータイム」が11年ぶりに町内で再開した。精神障害者らの働く場としてNPO法人が2006年に運営を始め、原発事故後は避難先の二本松市で営業してきた。避難指示解除後の町に暮らす人たちの新たな居場所となる喫茶店。コーヒーの香りと笑い声が漏れてくる。【尾崎修二、渡部直樹】
町がJR浪江駅西側に新たに整備した複合公共施設「ふれあいセンターなみえ」。デイサービスや町社会福祉協議会の事務所が入る建物に再開したコーヒータイムはある。町内在住の店員、志賀千鶴さん(64)が、慣れた手つきで丁寧にコーヒーをドリップしていた。
運営するのは店名と同じNPOコーヒータイム。精神障害者のボランティアに携わってきた橋本由利子さん(69)が「いつでも集まれる場所を作りたい」と06年に設立し、同町大堀地区の山あいのログハウスなどで喫茶店や作業所を開いた。原発事故で職員5人や利用者15人が各地に散ったが、11年秋以降は町役場が避難した二本松市で喫茶店を再開し、18年には同市内に2店目の喫茶店も始めた。
二本松での事業は形になっていたが、橋本さんには「ふるさとの浪江でもコーヒータイムを再開したい」との思いがあった。背中を押したのは、町に戻り1人で暮らす志賀さんの存在だった。
浪江育ちの志賀さんは20代で統合失調症を発症。「死んでしまえ」などという幻聴に苦しみ、引きこもりの時期も長かった。だがコーヒータイムが開設されると、客として通うようになり、次第に接客も担当するようになった。そんな「生きがい」だった場所が、原発事故で奪われた。
避難のさなか薬を切らし、長年抑えていた幻聴も再発した。コーヒータイムの二本松での再開を知ると迷わず近くの仮設住宅に移り、喫茶店で働きながら少しずつ平穏な生活を取り戻していった。
志賀さんは町中心部の避難指示解除から1年後の18年、町内に戻った。その後は往復3時間かけて二本松に乗用車で通勤したが、運転は苦手で毎日は通えない。雪の降る冬場は長期休みになった。思い切って故郷に戻ったはいいが、ほかに行くあてもなく、さびしく退屈な日が増えてしまった。
ふれあいセンターの開所に伴い、町が施設内への喫茶店の出店を打診したのは、そんなときだった。橋本さんたちは、浪江にもう一つのコーヒータイムを作ると決めた。
オープン初日、志賀さんは朝から大張り切りでカウンターに立った。これからは故郷の浪江で毎日働ける。「ワクワクします。コーヒータイムで働いていると楽しくて、一日があっという間。みんなでお話をしながら、まったりゆったりできる店にしていきたい」
町の復興は徐々に進み、居住人口は震災前の9%の約1900人になった。だが、帰還した人たちの中には、人知れず孤立や孤独を抱える人もいるのではないか――。橋本さんはそう考える。「高齢者や障害のある人が気軽に立ち寄れる店にしたい。図書館やグラウンドも隣接しているので、訪れた人たちに障害のことを理解してもらう機会にもなれば」と話す。
通常営業は7月から。営業は平日午前10時~午後4時の予定。
町民活動の場に
ふれあいセンターなみえは福祉、交流、運動の3機能を持ち、幅広い世代の町民の活動の場となる。町立図書館も原発事故以来初めて町内で再開した。デイサービスなどが入る介護・福祉関連施設、図書館や調理室などが入る交流施設、ボルダリング設備や遊具をそろえた屋内遊び場、屋外運動場の4施設で構成される。総事業費は約34億円で、国の福島再生加速化交付金などを使った。
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