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ウクライナ侵攻

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻から1年。長期化する戦闘、大きく変化した国際社会の行方は……。

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ウクライナ侵攻報道がメンタルヘルスに影響 大人も子供も対策必要

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荻上チキさん=東京都港区で2022年4月27日、竹内紀臣撮影
荻上チキさん=東京都港区で2022年4月27日、竹内紀臣撮影

 ロシアによるウクライナ侵攻が始まって以来、テレビや新聞、インターネットなどを通じて戦地の様子が連日伝えられている。大人だけでなく子供も深刻な戦況や悲惨な映像に接する機会が多く、メンタルヘルスへの影響が懸念されている。専門家は報道に触れる時間を減らすなど対策の必要性を訴えている。

 一般社団法人「社会調査支援機構チキラボ」(荻上チキ所長)は5月にウェブアンケートを実施し、ウクライナ侵攻の報道を視聴する時間が長い人ほど「抑うつ度」「不安感」などが強くなり、メンタルヘルスを悪化させる恐れがあるとの結果をまとめた。

抑うつ、不安感とも悪化

 チキラボは、新型コロナウイルス禍における心の健康について、ウェブアンケートを昨年6月から定期的に実施。今回はロシアの侵攻後初の調査で、5月9~11日に全国の18~79歳の男女1000人を対象に行った。戦争や災害、テロなどの報道は「惨事報道」と呼ばれ、視聴者のメンタルヘルスに悪影響を与えかねないと指摘されていることを踏まえ、ウクライナ報道に関する質問を設けた。

 侵攻前の2月に実施した前回調査と比べて、「抑うつ状態が中度以上の人」は、若年女性(18~39歳)で9.4ポイント増加し35.1%、高齢女性(60~79歳)で5.7ポイント増の12.5%。「不安感が中度以上の人」は、高齢女性で9.1ポイント増加して12.5%だった。荻上所長は「高齢女性層はコロナの影響下でもメンタルヘルスを悪化させなかったが、今回の『不安感』は大幅に悪化し、これまでで最高になった。大きな影響を与えたのはウクライナの戦争報道ではないか」と分析する。

 ウクライナ報道には、テレビで接する人が多かった。視聴時間が長いほど「抑うつ度」「不安感」「孤独感」のいずれも強かった。

 一方で、家族や友人との会話の中で情報に触れているほど不安感の高い人が少なく、孤独感が低かった。

 荻上所長は「今どのような戦争が起きているかなどを伝える報道は知る権利の面から重要だ。惨事報道によって精神面に影響を受ける『惨事報道ストレス』が存在することをメディアが広く解説すればセルフケアが進み、メンタルヘルス悪化の緩和や予防につながるだろう。惨事報道をする際には、メンタルヘルスの相談窓口を紹介するなど注意喚起も課題だ」と話している。

子供の間でも「死」が話題に

 「ウクライナで生活している人って、きっと大変だね」「自分よりもすごく大変な人たちっているんだよね」

 子供の精神医療などに携わる東北医科薬科大医学部精神科学教室の福地成・病院准教授によると5月、診察する複数の小学校低学年の児童が、ウクライナのことを話題にした。「人って、死んでしまうとどうなるんだろうね」と話した子もいたという。

 福地さんは、ウクライナの話題が出た際は、どのような映像を見たか▽どのような事実を知っているか▽どう感じているか――を聞き、間違いがあれば、一通り聞いた後に訂正することにしている。

 福地さんは「小学校低学年の児童は、ウクライナの悲惨な映像を見ても、何を意味するか分からないのだと思うが、『怖い』と感じるのだろう。コロナ禍の影響も合わさり『死』を話題にする子供が増えたと感じる」と話す。

 診察現場では、明らかにウクライナ関連の映像が影響して不調になった子供はいないという。ただ、何らかの心的トラウマやつらい体験をしたことがある人は、過去の体験を連想する出来事に出合うと、ささいな映像であっても具合が悪くなることがあるという。

 福地さんは「みやぎ心のケアセンター」(仙台市)のセンター長として、東日本大震災の被災…

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【ウクライナ侵攻】

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