買い物に行ったきりの妻、祭り会場で消えた父… 帰り待つ家族の思い

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認知症が原因で行方不明になった妻を捜す川崎市の小川益宏さん(左)と父を捜す青森県三戸町の桑添正之さん。2人はそろって講演しそれぞれの経験と思いを語った=東京都杉並区で2022年2月25日午後4時43分、銭場裕司撮影
認知症が原因で行方不明になった妻を捜す川崎市の小川益宏さん(左)と父を捜す青森県三戸町の桑添正之さん。2人はそろって講演しそれぞれの経験と思いを語った=東京都杉並区で2022年2月25日午後4時43分、銭場裕司撮影

 認知症が原因で行方不明になった家族の帰りを待つ人たちがいる。今年2月には、父親を捜している青森県の男性と、妻を捜す神奈川県の男性が東京都内で初めて対面し、それぞれの苦しい胸の内を語った。捜索のためにできることはなんでもやってきた2人。どれだけ時間がたってもあきらめることはできず、一歩でも状況を前に進めようとしている。【銭場裕司】

 2人が顔を合わせるきっかけになったのは、川崎市麻生区の元経済誌編集長、小川益宏さん(87)の強い思いだった。

 妻、和子さん(当時80歳)は2018年5月21日に買い物に出たまま行方が分からなくなった。店は歩いて2、3分の場所にあり、2日前にも1人でミカンを買って帰ってきた。21日は高齢者施設の担当者に妻の入居に関する説明を聞く予定で、頭のどこかで妻に聞かせたくない気持ちもあったという。なぜあの時、一緒に行こうねと言わなかったのか。小川さんはずっと後悔している。

2018年5月21日に川崎市の自宅から行方不明になった小川和子さん=家族提供
2018年5月21日に川崎市の自宅から行方不明になった小川和子さん=家族提供

「個人情報だから話せません」

 妻が認知症になった後も穏やかな暮らしは続いていた。夫婦で童謡サークルに通い、妻が好きだった「さっちゃん」や「春よ来い」を隣で歌うと笑顔を見ることができた。行方不明になるほんの少し前には、箱根(神奈川県箱根町)の保養所に出かけて温泉を楽しみ、ほとんどやらなかったカラオケや卓球も一緒にできた。その旅の楽しい思い出は妻が自分に残してくれた贈り物だと思っている。

 行方不明後、近隣はもちろん妻の足が向く可能性のある場所をくまなく捜した。保護している人がいるという自治体に電話で問い合わせると「個人情報だから話せません」と冷たくあしらわれたこともある(その後、妻ではないと判明)。

 自分と同じように家族が行方不明になった人はどうやって捜しているのか、直接話を聴いてみたい……。小川さんのそんな思いを知った認知症介護研究・研修東京センター(東京都杉並区)の永田久美子・副センター長らが協力して、行方不明になった認知症の父親を捜している青森県三戸町の桑添正之(ただゆき)さん(58)と話をすることになった。

あの日から5000日

2008年11月29日に青森県三戸町の祭りの会場から行方不明になった桑添正夫さん=家族提供
2008年11月29日に青森県三戸町の祭りの会場から行方不明になった桑添正夫さん=家族提供

 新型コロナウイルスの感染対策も考慮して、2人は昨年11月、オンラインであいさつを交わした。桑添さんの父正夫(まさお)さん(当時77歳)は08年11月、町内の祭りの会場から行方不明になった。1956年に三戸町で初のすし店を開店し、温厚な人柄でたくさんの従業員に慕われた。店を継いだ桑添さんと母親の京子さん(89)は今でも正夫さんへの陰膳を欠かさず、ビールを置く日もある。店のカレンダーに書き込んでいる行方不明からの日数は、この夏で5000日になる。

 昨年11月のオンラインでの会話で、小川さんと桑添さんはビラ配りや警察犬の活用などそれぞれがどのように捜してきたかを語り合った。桑添さんが「(行方不明から)13年にもなりますが、あきらめられない。家族ですから、なんとか見つけて三戸町から旅立たせてやりたい」などと語ると、小川さんも大きくうなずいた。

すし店を営む桑添正之さん(左)と母親の京子さん。自分たちと同様に行方不明になった家族を捜している川崎市の小川益宏さんとオンラインで会話を交わした=青森県三戸町で2021年11月28日午後3時28分、銭場裕司撮影
すし店を営む桑添正之さん(左)と母親の京子さん。自分たちと同様に行方不明になった家族を捜している川崎市の小川益宏さんとオンラインで会話を交わした=青森県三戸町で2021年11月28日午後3時28分、銭場裕司撮影

小川さん「もっと情報共有を」

 2人が直接顔を合わせたのは今年2月に東京都内で開かれた認知症関連の全国フォーラムの場だ。それぞれの活動を一歩でも前に進めたい2人に永田さんが講演会への参加を打診し、そろって登壇することになった。小川さんは講演で「あらゆる手立てを尽くしましたが、個人の力ではどうしようもないところまで来ている」との思いを語った。小川さんの存在を「心強い」と言う桑添さんは「私たちのような家族はこれからも増える。同じような苦労をしないように、自分の経験はオープンにして話したい」と語る。

 警察庁によると、21年に認知症が原因で行方不明者届が出された人は1万7636人となり、9年連続で最多を更新した。多くは無事に帰ってこられたものの、行方不明のままの人や亡くなって見つかる人もいる。小川さんは「行方不明になって帰ってきた人たちの話も含めて経験談を共有できないだろうか。もっと多くの当事者に会って情報共有や意見交換がしたい」と願う。それが妻の帰宅につながるはずだと信じている。

すし店を営む桑添正之さん(右奥)と母親の京子さん。自分たちと同様に行方不明になった家族を捜している川崎市の小川益宏さんとオンラインで会話を交わした=青森県三戸町で2021年11月28日午後3時18分、銭場裕司撮影
すし店を営む桑添正之さん(右奥)と母親の京子さん。自分たちと同様に行方不明になった家族を捜している川崎市の小川益宏さんとオンラインで会話を交わした=青森県三戸町で2021年11月28日午後3時18分、銭場裕司撮影

 情報提供や同じ境遇などで2人と話したい人は東京センター地域資源連携担当(03・3334・1150、cmr@dcnet.gr.jp)まで。

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