特集

ニュース|東京オリンピック

東京オリンピックに関するニュースです。

特集一覧

いま会いたい

もう一つの東京オリンピック映画 「非公式」があぶり出した本質

  • ブックマーク
  • 保存
  • メール
  • 印刷
「東京オリンピック2017 都営霞ケ丘アパート」の監督、青山真也さん=東京都世田谷区のミニシアター「K2」で2022年6月8日午後2時14分、田原和宏撮影
「東京オリンピック2017 都営霞ケ丘アパート」の監督、青山真也さん=東京都世田谷区のミニシアター「K2」で2022年6月8日午後2時14分、田原和宏撮影

 河瀬直美さんが総監督を務めた東京オリンピックの公式記録映画が全国で公開された今月3日、東京・下北沢駅前のミニシアター「K2」に足を運んだ。もう一つの五輪映画を見るためだ。公式と非公式、二つの作品を重ねて見ると、東京五輪の光と影が浮かび上がる。国内世論を二分して開催された昨夏の祭典からもうすぐ1年。二つの五輪映画が伝えるものとは。

市川崑作品を想起させた河瀬作品

 「大切なコミュニティーが引き裂かれ、多くのことを犠牲にして開催された東京五輪。代わりに得たものはなんだったのか」。そう語るのは映画監督の青山真也さん。公式記録映画の公開に合わせて、昨夏に公開したドキュメンタリー映画「東京オリンピック2017 都営霞ケ丘アパート」を再上映した。

 都営霞ケ丘アパートは、1964年東京五輪を機に新宿区に整備された公営住宅。半世紀もの歳月を経て再び開催されることになった東京五輪のメインスタジアム、国立競技場の建て替えに伴い、16~17年に取り壊された。映画は、ここで暮らしていた約130世帯の人々の日常を映し出した作品だ。

 古くから住む住民が階下の青果店で何気ない会話を楽しんだり、清掃活動で協力し合ったりする場面が映し出される。高齢者がテレビを見て日がな一日を過ごす孤独な姿もありのままに描く。東京五輪の賛否が語られる場面はほとんどなく、国家的イベントによってささやかな暮らしが失われるさまをカメラは淡々と捉えている。

 市川崑監督が製作を指揮した前回の東京五輪の公式記録映画に触発され、青山さんは非公式の五輪映画を作れないかと考えるようになった。住民が五輪によって再び立ち退きを迫られているという話を聞き、14年から霞ケ丘アパートの撮影を始めた。

 映画に登場する住民のうち、20人以上は既に亡くなったという。住民の多くは引っ越しを望んでいなかったが、期限が迫る中、やむなく作業に取りかかる。衣服など多くの荷物を整理し、室外機などの重いものを運ぶ姿は見ていて痛々しい。古い写真を捨てる場面は何とも象徴的だ。こうやって小さな物語は忘れ去られ、歴史の記憶は都合良く上書きされていく――。そんなことを思った。

象徴的だった「森先生」

 青山さんは、今回の東京五輪の公式記録映画をどんな思いで見たのだろうか。後日…

この記事は有料記事です。

残り2113文字(全文3060文字)

あわせて読みたい

マイページでフォローする

ニュース特集