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親日家が多いとされるトルコで、日本の取り組みを手本に防災意識を高めるコンテストが始まった。両国は共に地震が多いという共通点はあるが、文化や風習、教育政策など違いも多い。「そのままでは定着しない」。国際協力機構(JICA)現地事務所など主催者の模索が続く。
5月末、初めて子どもや若者を対象に開かれたコンテストがオンラインで開かれた。トルコ全土の小中高と特別支援学校から寄せられた99の提案のうち、32人・グループが防災に関するアイデアをオンライン形式で発表した。
発声が困難など、被災しても助けを求めることができない人の居場所を特定するため、鈴と位置情報を把握できる全地球測位システム(GPS)装置を入れた靴下。小さなLEDライトが付いたリュックは災害時、ライトの明かりを手がかりに持ち出しが容易なうえ、可愛い飾りも付いていて普段はインテリアとして楽しめる。それぞれ、小学3年のムハンメド・エディップ・デミルドイさん(9)、小学1年のアリ・タンリオベールさん(7)が発表したアイデアだ。
小学生部門は、ゲームや遊び感覚で楽しみながら防災知識を身につけるアイデアが豊富で、中学生以上はプログラミング技術を用いた災害シミュレーションや、障害者の学校防災訓練参加を啓発する動画の作成など、課題解決型の提案が多かった。
コンテストのモデルにしたのは、学校や地域での優れた防災教育を顕彰する「ぼうさい甲子園」(毎日新聞社、兵庫県など主催)だ。1995年の阪神大震災の教訓を生かすため、2005年に始まった。トルコ版ぼうさい甲子園の主催は、トルコ(土国)と日本の親善を図る公益法人「土日基金」とJICAトルコ事務所。基金副議長で同事務所副代表を務めるエミン・オズダマルさんは「トルコは防災教育のアイデアや教材が不足している。アイデアを広く共有することで、学校での関心を高めたい」と説明する。
大地震きっかけで兵庫と交流
日本から8000キロ以上離れたトルコでなぜ、開催に至ったのか。それは、99年8月と11月にトルコ北西部で発生したマグニチュード(M)7を超える大地震がきっかけだった。
二つの地震では1万8000人以上が命を落とし、約4万9000人が負傷(トルコ政府発表)した。この時、兵庫県などは義援金を募り、集まった約2億4000万円をトルコに送った。土日基金はこの義援金で基金を設立し、運用益を原資に、トルコ大地震で遺児・孤児となった現地の子どもたちに育英金を支給した。遺児支援が一段落してからは、基金の残りでトルコ国内の防災教育や震災対策研究のための「ひょうご・トルコ地震防災対策プロジェクト」が発足した。
プロジェクトではトルコと兵庫県双方の人材交流があり、オズダマルさんも土日基金のメンバーとして県内の学校の防災教育などを視察。その際、ぼうさい甲子園に興味を持った。トルコでは地震や洪水など災害が頻発しているが、日本に比べ防災教育は浸透しておらず、地域格差も大きいという。オズダマルさんは、子どもや若者が、家庭や地域、学校のほか将来的には社会の防災の担い手になると考え、トルコ版ぼうさい甲子園の構想を練ってきた。
兵庫県の開催要項も参考に21年には、教員から防災教育のアイデアを募る「教員版ぼうさい甲子園」を実施。就学前児童や小中高校、知的障害児向け特別教育課程――の4部門に計40校から応募があった。
定着目指しアレンジ模索
オズダマルさんによると、トルコの国民性として「すぐ結果を求める」「チームワークが難しい」という傾向があるという。オズダマルさんは「日本版そのままでは、定着は難しい」と考えている。継続に向けて、応募者のアイデアを基に教材を開発し、発案者にその教材を提供するといった仕組みを導入できないか模索している。さらに、トルコ版ぼうさい甲子園の浸透を図るため、来年度からは大学生の参加を検討しており、教員版と児童・生徒・学生版を合わせて、年に数回実施する計画だ。
今回発表された32のアイデアは、トルコ災害緊急事態対策庁(AFAD)や大学の研究者、JICA関係者らの審査員が「独創性があるか」「同級生や同僚に伝えられるか」などの観点で審査された。21日に結果発表があり、タンリオベールさんのアイデアなど14の提案が受賞した。【菅沼舞】